春宵しゅんしょう)” の例文
この家の深窓しんそう佳人かじんと玄徳とが、いつのまにか、春宵しゅんしょうの秘語を楽しむ仲になっているのを目撃して、関羽は、非常なおどろきと狼狽ろうばいをおぼえた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現に今日きょう、和泉式部を訪れたのも、験者げんざとして来たのでは、勿論ない。ただこの好女こうじょの数の多い情人の一人として春宵しゅんしょうのつれづれを慰めるために忍んで来た。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
落着いた先は小梅の大きな寮、隅田川から水を引いた池の上には、見事な遊山船を浮べて、春宵しゅんしょう一刻を惜しむの長夜の宴を、昨日も今日も開いているのでした。
孤村こそんの温泉、——春宵しゅんしょう花影かえい、——月前げつぜん低誦ていしょう、——朧夜おぼろよの姿——どれもこれも芸術家の好題目こうだいもくである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
以上は言わばたわいもない春宵しゅんしょうの空想に過ぎないのであるが、しかし、ともかくもわれわれが金城鉄壁と頼みにしている頭蓋骨ずがいこつを日常不断に貫通する弾丸があって
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
服装なりだって見上げたもので、まだ薄ら寒いこの春宵しゅんしょうに、よごれ切った藍微塵あいみじん浴衣ゆかた一まい、長いやつを一本ブッこんで、髪なんかでたらめだ。クシャクシャにつかげている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
支那しなの詩人は悩ましげにも、「春宵しゅんしょう一刻価千金」と歎息たんそくしている。そは快楽への非力な冒険、追えども追えどもとらえがたい生の意義への、あらゆる人間の心に通ずる歎息である。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
君帰り物語りすと見しは夢、ふとうたたねの春宵しゅんしょうの夢
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
げに、一刻千金春宵しゅんしょうのながめよりもはかなき青春よ!
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
春宵しゅんしょうをあだに過ぎなばくいあらん
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
それだから千金の春宵しゅんしょうを心も空に満天下の雌猫雄猫めねこおねこが狂い廻るのを煩悩ぼんのうまよいのと軽蔑けいべつする念は毛頭ないのであるが、いかんせん誘われてもそんな心が出ないから仕方がない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春宵しゅんしょう一刻あたい千金、ここばかりは時をがお絃歌げんかにさざめいている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
春宵しゅんしょうや柱のかげの少納言しょうなごん
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
ただこの靄に、春宵しゅんしょうの二字を冠したるとき、始めて妥当なるを覚える。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春宵しゅんしょうの此一刻を惜むべし
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)