明々地あからさま)” の例文
年紀としのころは二十七八なるべきか。やや孱弱かよわなる短躯こづくりの男なり。しきり左視右胆とみかうみすれども、明々地あからさまならぬ面貌おもてさだかに認め難かり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
真実にして容飾なき人生の説明者はこの絃琴の下にありて、明々地あからさまにその至情を吐く、その声の悲しき、その声の楽しき、一々深く人心の奥を貫ぬけり。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
もし倉地が明々地あからさまにいってくれさえすれば、元の細君さいくんを呼び迎えてくれても構わない。そしてせめては自分をあわれんでなり愛してくれ。そう嘆願がしたかったのだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
まあ、おそろしいところからくらゐはなれたらうとおもつて怖々こは/″\振返ふりかへると、ものの五尺ごしやくとはへだたらぬわたし居室ゐま敷居しきゐまたいで明々地あからさま薄紅うすくれなゐのぼやけたきぬからまつて蒼白あをじろをんなあしばかりが歩行あるいてた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
常に可忌いまはしと思へる物をかく明々地あからさまに見せつけられたる貫一は、得堪えたふまじくにがりたる眉状まゆつきしてひそかに目をそらしつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この一筋道を行くなれば、もしかの人の出来いできたるに会はば、のがれんやうはあらで明々地あからさまおもてを合すべし。さるは望まざるにもあらねど、静緒の見る目あるを如何いかにせん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)