旋律せんりつ)” の例文
まず田辺尚雄たなべひさお氏の論文「日本音楽の理論附粋の研究{4}」によれば、音楽上の「いき」は旋律せんりつとリズムの二方面に表われている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
そしてまったくそのの音のたえまを遠くの遠くの野原のはてから、かすかなかすかな旋律せんりつが糸のようにながれて来るのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わらべ達の謡う愛らしい童謡わざうた旋律せんりつと、時折さびしげに鳴く山鴿の鳴声が、微妙に入り交り、織りなされ、不可思議な「夢幻」の諧調となって
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
聞きながらこの曲の構想を得たのである手事の旋律せんりつは鶯のこおれる涙今やとくらんと云う深山みやまの雪のけそめる春の始めから
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
舞の振りや楽の旋律せんりつを無視して論ずるのは無謀であるが、ただこの舞曲の構造から考えると、恐らく活人画を去ること遠くないものであったろう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
人長ひとおさが、一つのことばうたい終ると舎人とねりらは、段拍子だんびょうしを入れ、たたみ拍子と、楽器をあわせて、まいと楽と歌とが、ようやく一つの早い旋律せんりつを描き出して
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一寸見たところでは、何んの變哲へんてつもない、『寢取り』の變奏曲ヴアリエーシヨンですが、心靜かに吹き進むと、その旋律せんりつに不思議な不氣味さがあつて、ぞつとそびらに水を流すやうな心持。
その単調な哀愁を帯びた旋律せんりつは、執拗に樹々の幹をい、位置によっては言葉尻まで判るほど明瞭に耳朶じだに響いて来るのだ。密林の持つ不思議な性格のひとつである。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
それから、演奏が終ってしまうまで、信一郎は、ピアノの快い旋律せんりつと、瑠璃子夫人の残して行った魅惑的な移り香との中に、恍惚こうこつとして夢のような時間を過してしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼の書物から来る美しいけれど悩しい旋律せんりつは私の心を奪い去るに十分適していた。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
くろなやみ旋律せんりつうづき起る。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そしてまったくその振子の音のたえまを遠くの遠くの野原のはてから、かすかなかすかな旋律せんりつが糸のように流れて来るのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし、孫兵衛の瞋恚しんいの耳には、そんな、かすかな旋律せんりつがふれても、心にはとまらなかった。息をこらして草むらをいだし、お綱のうしろにヌッと立った。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)