旅嚢りょのう)” の例文
彼は肩に掛けている旅嚢りょのうを揺りあげ、持っている萱笠すげがさをふらりと、その岩のほうへ振った。すると、老人の顔を緑色の影がかすめた。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
過去の旅嚢りょのうから取り出される品物にはほとんど限りがない。これだけの品数を一度にれ得る「鍋」を自分は持っているだろうか。
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
つまり、宿からここへ送らせた旅嚢りょのうを、すっかり座敷へブチまけて、植物と押葉の分類をはじめたのです。
旅嚢りょのうも包みも持っていないのを見てもわかる。きっとパリーからきたのであろう。ところで、なぜこの森の中にきたのか、なぜこんな時刻にきたのか、何をしにきたのか?
そこの地を踏まれたという鈴木さんの話にはまた、何か新しい話材が聞かれるに違いないとは思っているが、いとまがないので先ず、自分の旅嚢りょのうだけをここでは開けて見ることにする。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして僕の旅嚢りょのうはおもいがけなくも豊かにされたのでした。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
○同所にて染附食器を多数譲られて旅嚢りょのうとみに重くなる
台湾の民芸について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
刀には旅嚢りょのうがひっ掛けてあり、その旅嚢が背中へ触らないように、かついでいる刀をあんばいしながら、歩いていた。
今度こそ——という目あてがついたようなものですから、旅嚢りょのうの欠乏も、さのみ気にはかかりません。むしろ、ここでお銀様の方から去ってしまったことが、身軽でよいくらいのものです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は首を傾けながら両のたもとを捜し、「ちょっと待って下さい」と云って、背負っていた旅嚢りょのうを解いてしらべ、小さな財布をみつけてまた首をひねった。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
片方の手には泥まみれで空っぽの旅嚢りょのうをさげ、足にはやはり黒藤邸でつっかけて来た、ちびた古下駄をはいていた。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
下総しもうさの中田宿じゅくでございました」喜兵衛は旅嚢りょのうの中から文箱ふばこを取り出して、甲斐の前へ差出した。その手はふるえていた、「まず御書面をごらん下さい」
妓たちが立ってゆくと、十左は旅嚢りょのうから一巻の書状を出して、七十郎に、読んでくれ、と云った。七十郎は盃を置き、それをひらいてざっと読みながした。
「いや、用があって来たんだが、それはあとのことにしよう」帯刀は旅嚢りょのうの中から手紙を取り出した、「きいから預かって来た、小一郎の手紙もあるそうだ」
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
肩へかけた旅嚢りょのうも、着ている物も、すべて汗じみ、ほこりまみれであるが、笠をぬいだところを見ると、いま洗面したばかりのように、さっぱりとえた顔つきをしていた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おすえはうなずいた。主計ははかまをはきながら、机の上の物をまとめてくれと云った。おすえは云われたとおりにし、書き物や、筆などを片づけて包み、脇にあった旅嚢りょのうへ入れた。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
意志の強そうな唇許くちもとと、まつげのながい、みひらいたような眼を持っている、体はがっちりとしては見えるが、まだどこやら骨細なので腰に差した大小や、背にくくりつけた旅嚢りょのうが重たげである。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は大きく膨れた網の旅嚢りょのうを背負い、左手に厚く折畳んだ緋羅紗ひらしゃを抱えていた。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
六兵衛は笠をぬぎ、旅嚢りょのうを取って投げると、林の下草の上へぶっ倒れた。
ひとごろし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)