故実こじつ)” の例文
旧字:故實
家は、室町むろまち幕府の名門であったし、歌学の造詣ぞうけいふかく、故実こじつ典礼てんれいに詳しいことは、新興勢力の武人のなかでは、この人をいて他にない。
矢をもって山の神を祭ることは古い習慣であるが、これはもっぱら狩猟に関し、境の神とは一見関係はないらしい。武家の故実こじつ矢開やびらきのことがある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それ故、知合いの島民の一人からマルクープ老人が比較的故実こじつにも通じ手先も器用であると聞伝えた私は、彼を使って見ようという気になったのである。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
くれる方も貰う方も皆僕が手がけましたから、結納ゆいのううだの式日しきじつなんの日が宜いのと故実こじつに通じてしまって、この方も人が訊きに来ます。妙なものですよ。
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
享保に入りては河東節かとうぶしその他の音曲おんぎょく劇場に使用せられ、俳優には二世団十郎、元祖宗十郎らで、後世の模範となるべき芸道の故実こじつ漸く定まりたる時代なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わが邦でも『調味故実こじつ』に兎は婦人懐妊ありてより誕生の百二十日の御祝い過ぐるまで忌むべしと見ゆ。
県社の神官に、故実こじつの詳しいのがあつて、神燈しんとうを調へ、供饌ぐせんを捧げた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
姓氏ばかりでなく、故実こじつ、旧制はみな、公卿たちの、観念だけにあって、秀吉の眼には、ひとつも、絶対的には見えなかった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心なき世上の若者淫奔いたずらなる娘の心をいざない、なおそれにても飽き足らず、是非にも弟子にと頼まれる勘当の息子たちからは師匠と仰がれ世を毒するなまめかしい文章の講釈。遊里戯場の益もない故実こじつ詮議せんぎ
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どんな席に置かれても、眼上めうえの前でも、至って窮屈がらないたちの信長は、眼八分に持ってくる銚子にも、小笠原流の料理、故実こじつのやかましい膳部も、極めてこだわりのない姿で
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはものものしい故実こじつを積んで人心収攬じんしんしゅうらんの演出を、諸民のなかにらしてみせた。
聟入り、嫁娶よめとりの故実こじつにやかましい老人も中にはいて
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)