放胆ほうたん)” の例文
旧字:放膽
元来が放胆ほうたんをもって知られている佐々砲弾だったけれど、涯しない天涯にほうりだされては、心細くならないではいられなかった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
物事について非常によく考える人でもあるが、また時には、驚くべき放胆ほうたんと不敵を示す家康であった。そう一決を下すと、彼はすぐ云った。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは放胆ほうたんな露骨な話であった。旧派俳人の子で文学志望者のわかい男のした話は、某婦人が奇怪な牛乳を用いたために妊娠したと云う話であった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私などはすなわちその講義聴聞者の一人でありしが、これを聴聞する中にも様々先生の説を聞て、その緻密ちみつなることその放胆ほうたんなること実に蘭学界の一大家いちだいか
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何に対しても無鉄砲で、放胆ほうたんで、自分勝手だった私は、いつのまにか臆病おくびょうになり、小胆になり、生きることのおそろしさに身の毛がよだつようである。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
なぜ親爺は単に「馬鹿野郎。」という放胆ほうたん罵倒ばとうの言葉をえらばなかったのであろう。それならば私は或いは親愛の表現と思い違いをしたかも知れないではないか。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
一、一時間に幾十百句をものするも善し、数日をついやして一句を推敲すいこうするも善し。早くものすれば放胆ほうたんかたに養ふ所あり、苦しみてものすれば小心の方に得る所あり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
原氏の前夫人は中井桜洲なかいおうしゅう氏の愛嬢で美人のきこえが高かったが、放胆ほうたんな家庭に人となったので、有為の志をいだく青年の家庭をおさめる事は出来にくく離別になったが
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
夏は放胆ほうたんの季節だ。小心しょうしん怯胆きょうたん屑々乎せつせつこたる小人の彼は、身をめぐる自然の豪快を仮って、わずかに自家の気焔を吐くことが出来る。排外的に立籠めた戸障子を思いきり取り払う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
格別の新しがらなくともあたらしい智識ちしきの洗礼を受けたのちの彼女の素直さと女らしい愛らしさと皓潔こうけつ放胆ほうたんがぎすぎすした理窟りくつ気障きざな特別な新らしがりより新らしいのでしょう。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕は慰めようもなく、ただおおいに放胆ほうたんなことをいうて主人を励ました。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
先程から相良十吉はワナワナとふるえているのだった。彼は冷静と放胆ほうたんとを呼びもどそうと、懸命に頭を打ちふり、あごをなでているのだった。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
少しばかり命がけな経験にもなれて来たので、いよいよその性行が放胆ほうたんに出て来た形でありました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)