推込おしこ)” の例文
引廻して前にて結び、これを帯に推込おしこみてほのかに其一端そのいつたんをあらはす、きれと帯とに照応する色合の可なるものまた一段、美の趣きあるあり。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
親の権威を笠にかおをして笠にて、其処ン処は体裁よく私を或型へ推込おしこもうと企らむだろう。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
急先鋒きゅうせんぽうの屠犬児、玄関へ乱入する、前面を立塞たちふさぎて喰留むるは護衛の門番、「退すされ、推参な!」というをも聞かず、無二無三に推込おしこめば
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こぼれる八ツ口の、綺麗な友染ゆうぜんを、たもとへ、手と一所に推込おしこんで、肩を落して坐っていたがね、……可愛らしいじゃないか。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
縁側の柱の元へ、音もなく、子爵に並んだ、と見ると、……気のせいだろう、物干の窓は、ワヤワヤと気勢けはい立って、やつが今居るあたりまで、ものの推込おしこんだ様子がある。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ華族様は気の長いもんだ。」「素直に待ってちゃあらちが明かねえ。」「蹈込ふんごめ。」と土足のまま無体に推込おしこむ、座敷の入口、家令と家扶はたすき綾取あやどり、はかま股立ももだち掻取かいとりて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ま、ま、待ちおれうぬ。」と摺下ずりさがりたる袴のすそふみしだき、どさくさと追来る間に、婦人おんなは綾子の書斎へ推込おしこみ、火桶の前に突立つったてば、振返る夫人の顔と、眼を見合せてきっとなりぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのことは聞いたけれど、むすめの身にもなって御覧、あんな田舎へ推込おしこまれて、一年ごし外出そとでも出来ず、折があったらお前に逢いたい一心で、細々命をつないでいるもの、顔も見せないで行かれちゃあ
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)