ほじ)” の例文
まあ、もうちっとほじくってから俺のとこへ持って来い。猫婆だって生きている人間だ。いつ頓死をしねえとも限らねえ
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
多「踏抜きはしやせん、踏抜きをしねえように朝くれえうちに貝殻や小さい砂利だの瀬戸物の砕片かけがあると、ほじくって置き、清潔きれいに掃きやんすから平坦てえらになって居りやす」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
夜が白んで物の色がほのかに明るくなった頃、御互の顔を見渡すと、誰も彼も奇麗きれいに砂だらけになっている。眼をこすると砂が出る。耳をほじくると砂が出る。頭をいても砂が出る。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「田にも畑にもなりッこないあんな土地をほじくり返して、村の衆は皆わらってござるぞ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええ、もう飛切りのをおつけ申しますよ。」と女房は土間を横歩行よこあるき。左側の畳に据えた火鉢の中を、邪険に火箸ひばしほじって、かっと赤くなった処を、床几の門附へずいと寄せ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼んな顔をしているけれども、若い時には手に負えぬ道楽者だった事、地獄まで金を背負しょって行く積りらしい事、何から何までほじって聞くから、正直しょうじきに答えなければならなかった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「私冷え性なものですから、安火がなくちゃどうしても寝つかれないの。」と、お増は中へ手をし入れて、火をほじくった。そしてそこから小さい火種を持ち出して、火鉢に火をおこしはじめた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鳴子なるこを馬鹿にした群雀むらすずめ案山子かかし周囲まわりを飛び廻ッて、辛苦の粒々をほじっている,遠くには森がちらほら散ッて見えるが、その蔭から農家の屋根が静かに野良をながめている,へびのようなる畑中の小径こみち
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)