捕縄ほじょう)” の例文
旧字:捕繩
けれど今、目前に、その女性の影を見たとき——そして捕縄ほじょうに手をふれた刹那には、さすがに、義平太も、惑わずにいられなかった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ポケットから一たばの捕縄ほじょうをとりだしたかと思うと、いきなり日下部老人のうしろにまわって、パっとなわをかけ、グルグルとしばりはじめました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
次に自分は捕縄ほじょうをはめられていた。殺人罪だ。垣根越しにのぞき込んだ時の酒場の内部が鮮やかによみがえった。
小さき良心:断片 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
驚いた私の前へ、続いて現れたのは、ガッチリ捕縄ほじょうを掛けられた、船員らしい色の黒い何処どことなく凄味のある慓悍ひょうかんな青年だ。二人の警官にまもられている。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ビュウッ! と捕縄ほじょうをしごいて口々に叫びかわす役人のむれ、社前のお藤をかこんでジリジリッとつめてゆく。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
腕力に秀でた巡査は、怪漢の手を逆にねじあげると、たちま捕縄ほじょうをかけてしまった。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この人物は何者であろう? 誰かが懐中ふところをのぞいたならば、すこしふくらんだふところの中に鼠色ねずみいろをした捕縄ほじょうと白磨き朱総しゅぶさの十手とが、ちゃんと隠されてあることに、きっと感づいたに相違ない。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
掌脂てあぶらを握って捕縄ほじょうの飛ぶのを待っていたが、加山も波越も、人波の中にかがみ腰になったまま、いつまで経っても、侍の背後うしろへ迫ってゆく様子が見えない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「赤松さん。警官達に捕縄ほじょうの用意をさせて下さい、そして犯人を捕縛することを命じて下さい」
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そも何者が訴人そにんをしてかくも捕り手のむれをさしむけたのか?——という疑惑ぎわくとふしぎ感だったが、そんな穿鑿せんさくよりも刻下いまは身をもってこの縦横無尽に張り渡された捕縄ほじょうの網を切り破るのが第一
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すると、ナイフを見た矢島君は、途端にダアとなって震えながら百圓札を一枚気張ってれたよ。で、僕は札を受取るかわりに、矢島君に捕縄ほじょうを掛けさして貰ったんさ。先生、多少は駄々をねたがね。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
太刀を抜きざまに、捕縄ほじょうを斬り払った。そして、犬の如く跳躍して、附近の森のなかへ、姿を消してしまった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恩田はね、高手小手にしばられ、五人の刑事に守られて、あの自動車で警視庁へ、連れて行かれるところだったのさ。しかし、警官の捕縄ほじょうは、少なくとも人間豹には、少し弱すぎたんだね。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、低く、地を飛んで来た捕縄ほじょうの分銅は、もう彼の右足へぐるぐるっと蛇のようにねばってからみついた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちのおもだった一人が、昔ふうの掛け声で、恩田の背後から組みつくと、つづく二人の警官が、捕縄ほじょうさばきもあざやかに、たちまち人間ひょうを、身動きもできぬように縛り上げてしまった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
外記は分銅のついた捕縄ほじょうを口と腕とに掛けながら、物干しのてすりを踏み台に、大屋根をのぞき上げた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
捕縄ほじょうをにぎりしめて待ちかまえていました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、二、三間ゆくといつのまにか体についていた捕縄ほじょうに引かれて反動的にぶっ仆れる。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しからぬかばい立てを召さる。いまの女は、悪党の一味として、こよいわれわれが捕縄ほじょうをもって追跡して来た者。宮の御祈願所ともある地内じないへ、左様な兇状者をかくまわれるとは心得ん」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)