抵当ていとう)” の例文
旧字:抵當
鬱勃うつぼつたる事業慾を押えることが出来ず、彼は山林の一部を抵当ていとうにして信用会社から資本の融通ゆうずうを受け、糞尿汲取事業ふんにょうくみとりじぎょうを開始した。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
村の旧家の某が賭博にけて所有地一切勧業銀行の抵当ていとうに入れたの、小農の某々が宅地たくちまでなくしたの、と云う噂をよく聞いた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
金魚屋きんぎょやは、その住宅じゅうたく土地とちとを抵当ていとうにして老人ろうじんられて、さいさい立退たちのきをせまられている。怨恨えんこんがあるはずだと、当局とうきょくにらんだのであつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
だが、期限が来ると、彦兵衛は、仮借かしゃくしなかった。約束どおり、抵当ていとうにとった家屋を明け渡してもらおうと云う。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
質に入れたりその質札しちふだを又抵当ていとうに置いたりはしませんが、随分遊びますね。殊に医科が激しいです。五千六千という借銭しゃくせんを背負ってウン/\いっているのが大勢いますよ
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
詮方せんかたなく、物は相談と思い、カンカン寅の許を訪ね、あのボロボロの建物を心ばかりの抵当ていとうということにして(あれでは二百円も貸すまいと云われた)、一千円の借金を申込んだ。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
利のつく金子かねを借りて山を買う、木をりかけ、資本もとでつかえる。ここで材木を抵当ていとうにして、また借りる。すぐに利がつく、また伐りかかる、資本もとでつかえる、また借りる、利でござろう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
節子の箪笥たんすに目ぼしい着物がなくなったと見るや、こんどは母のこまごました装身具を片端から売払った。父の印鑑を持ち出して、いつの間にやら家の電話を抵当ていとうにして金を借りていた。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お金の抵当ていとう此処こゝの伯母さんに此の観音様を取られましたから、母は神仏かみほとけにも見離されたかと申して泣き続けて居りますから、どうか母の気を休めようと思い、旦那を取ると申しまして
田畑は勿論もちろん宅地たくちもとくに抵当ていとうに入り、一家中日傭ひやといに出たり、おかみ自身じしん手織ており木綿物もめんものを負って売りあるいたこともあったが、要するに石山新家の没落は眼の前に見えて来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
『高利貸に知辺しるべはないのか。抵当ていとうと云うたら、この首で貸せというのだ。その位、押し強く出なければ、金策などは出来るものか。大体、ここの夫婦は、ちとおとなし過ぎる』
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも多人数で切ったのですから、ぼくの運がわるく、而も丹毒で苦しみ、病院費の為、……おやじの残したいまは只一軒のうちを高利貸に抵当ていとうにして母は、兄と争いながら金を送ってくれました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)