抱一ほういつ)” の例文
とても抱一ほういつなどと比すべきものではない、抱一の画の趣向なきに反して光琳の画には一々意匠惨憺さんたんたる者があるのは怪しむに足らない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
数代前の先祖から門外不出といわれて秘蔵されて来たことだの、また、そこには抱一ほういつ文晁ぶんちょうの頃から文人や画家がよく遊んだことだの
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紫に描いた。すべてがしろかねの中からえる。銀の中に咲く。落つるも銀の中と思わせるほどに描いた。——花は虞美人草ぐびじんそうである。落款らっかん抱一ほういつである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしの祖父や父もまずそのお仲間でございまして、歌麿のかいた屏風だとか、抱一ほういつ上人のかいた掛軸だとかいうようなものが沢山たくさんにしまってありました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
抱一ほういつ上人の夕顔を石燈籠いしどうろうの灯でほの見せる数寄屋すきやづくりも、七賢人の本床に立った、松林の大広間も、そのままで、びんちょうの火をうずたかく、ひれのあぶらる。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この年の虎列拉コレラは江戸市中において二万八千人の犠牲を求めたのだそうである。当時の聞人ぶんじんでこれに死したものには、岩瀬京山いわせけいざん安藤広重あんどうひろしげ抱一ほういつ門の鈴木必庵すずきひつあん等がある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
けれども指先に出して見ると、ほんとうの歯の欠けたのだった。自分は少し迷信的になった。しかし客とは煙草たばこをのみのみ、売り物に出たとか噂のある抱一ほういつの三味線の話などをしていた。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これ宿屋飯盛が文にして画賛に尻焼猿人しりやけのさるんど抱一ほういつ)以下天明の狂歌師が吟咏を採録したり。狂歌絵本は当時最も流行し最も美麗なる製本をなせり。然れどもその起源は既に浮世絵発達の当初にあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
抱一ほういつが句に「山茶花さざんかや根岸はおなじ垣つゞき」また「さゞん花や根岸たづぬる革ふばこ」また一種の風趣ふうしゅならずや
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「あなた、あの屏風びょうぶを売っちゃいけなくって」と突然聞いた。抱一ほういつの屏風はせんだって佐伯さえきから受取ったまま、元の通り書斎の隅に立ててあったのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
卯の花のたえ間をここに音信おとずるるものは、江戸座、雪中庵の社中か、抱一ほういつ上人の三代目、少くとも蔵前の成美せいびの末葉ででもあろうと思うと、違う。……田畝たんぼに狐火がともれた時分である。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一、そこらにある絵本の中から鶴の絵を探して見たが、沢山の鶴を組合せて面白い線の配合を作つて居るのは光琳こうりん。ただ訳もなく長閑のどかに並べて画いてあるのは抱一ほういつ
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「でも、道具屋さん、ありゃ抱一ほういつですよ」と答えて、腹の中ではひやりとした。道具屋は、平気で
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時宗助はようやく今日役所の帰りがけに、道具屋の前で坂井に逢った事と、坂井があの大きな眼鏡めがねを掛けている道具屋から、抱一ほういつ屏風びょうぶを買ったと云う話をした。御米は
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抱一ほういつの画、濃艶のうえん愛すべしといへども、俳句に至つては拙劣せつれつ見るに堪へず。その濃艶なる画にその拙劣なる句のさんあるに至つては金殿に反古ほご張りの障子を見るが如く釣り合はぬ事甚だし。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)