折衷せっちゅう)” の例文
広重ひろしげめいた松の立木——そこには取材と手法とに共通した、一種の和洋折衷せっちゅうが、明治初期の芸術に特有な、美しい調和を示していた。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
都近いこのへんの村では、陽暦陰暦を折衷せっちゅうして一月おくれで年中行事をやる。陽暦正月は村役場の正月、小学校の正月である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ゆえに、学校を建つるの要訣ようけつは、この得失を折衷せっちゅうして、財を有するものは財をついやし、学識を有するものは才力を尽し、もって世の便利を達するにあり。
最初は日本の旧習を参酌さんしゃくして欧州の法典を折衷せっちゅうし、従来の家族制を存して一等親、二等親、三等親の別を立てたのだが、この三等親は即ち権妻ごんさいである。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
第七 軽便ミルクトース は前の法を日本風に折衷せっちゅうしたもので先ず牛乳一合をかして塩と砂糖をきほどに加えて溶いたくずを混ぜたのがソースです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
柴の門を入ると瀟洒しょうしゃとした庭があって、寺と茶室と折衷せっちゅうしたような家の入口にさびたれんがかかっている。聯の句は
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ひそかおもうに、嘉永、安政より元治、慶応におよんで三個の思想あり。一は原動的思想にして、他は反動的思想なり、しこうしてその中間にるは折衷せっちゅう的思想なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
僕は又単に事実の方へのみ傾き過る事が有ッて僕の考えと妻の考えを折衷せっちゅうすると丁度好い者が出来て来る
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
本牧ほんもくさんたにに、遠くからでも見える十九世紀型の西洋館と、破風はふづくりの、和洋折衷せっちゅうの、その頃ではめずらしい、また、豪奢ごうしゃなとも驚かれていた、別荘があった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大正初期の和洋折衷せっちゅうの不思議な文化が、あますところなく描かれている。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
すべての装飾がヨーロッパ風とネパール風の折衷せっちゅうであります。こりゃごく小事ですけれどもこの国の国是こくぜの方針がどんなものかということは、この室内の装飾でもちょっと知り得ることが出来るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼女が自分の母屋おもやを和洋折衷せっちゅう風に改築して、電化装置にしたのは、彼女が職業先の料亭のそれを見て来て、負けず嫌いからの思い立ちに違いないが、設備して見て
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのためにか、店の横から裏通りへとおして華麗な、和洋折衷せっちゅう青楼おちゃやとも住宅ともつかないものがあって、今朝も、ふたりの洋人が、濁った眼をして、桟橋へ帰った。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日は豚料理でないよ、妙な折衷せっちゅう料理だが、君、このスープを一つ試み給え。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
従来の輿こしでは、重きに失して、進退の敏速を欠く。また近来用いられ出した駕籠かごでは、敵に出会って働きができない。そこで彼は、輿と駕籠を折衷せっちゅうした新様式の陣輿を案出した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)