手暴てあら)” の例文
「まあ、そのように手暴てあらくせずと……。市さまはこの通りに酔うている。連れて帰ってもお役に立つまい。お前ひとりでよいように……」
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
我心に従えと強迫すれど、聞入れざるを憤り、日に日に手暴てあら折檻せっかんに、無慙むざんや身内の皮は裂け、血にみて、紫色に腫れたるあとも多かりけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けしからぬ女かな、といかりの余に手暴てあら捩放ねぢはなせば、なほからくもすがれるままにおもて擦付すりつけて咽泣むせびなきに泣くなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
つい正体を失う……誰かに手暴てあらく揺ぶられてまた愕然がくぜんとして眼を覚ませば、耳元にどっと高笑たかわらいの声。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
っかあがまたあゝいう気象だからお前に逆らって、んだんだというとお前が又癇癪を起して喧嘩を始めて、手暴てあらい事でもして、お母の血の道を起すか癪でも起ったりすると
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
叩いては安眠の妨害になるからよしてくれって言ったっけ。しかし僕のは竹刀だが、この鈴木将軍のは手暴てあらだぜ。石塔と相撲をとって大小三個ばかり転がしてしまったんだから
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男は手暴てあらく重太郎を突き退けると、彼は椿の枝を持ったままで地に倒れた。これで黙っている重太郎ではない、椿の枝を口にくわえて又跳ね起きた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
手暴てあらくするな。」
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六郎 これ、これ、手暴てあらいことをするな。(彦三郎を介抱する。)もし、飛んだ失禮をいたしました。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
勘太郎 わたしはなぜこんな手暴てあらいことをしたか。くれ/″\も堪忍して下さい。あゝ、これでさかなも臺無しになつてしまつた。まあ、酒だけでも納めて貰ひませう。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
一酷老爺いっこくおやじの七兵衛は、箒で手暴てあらく突き退けると、酔っているお葉は一堪ひとたまりもなく転んだ。だらしなく結んだ帯はけかかって、掃き寄せた落葉の上に黒く長く引いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うちの姉さんの家出したのはほかに仔細のあることで、おとなりの幸之助さんとは係り合いが無いのかも知れないからね。そのつもりで、むやみに手暴てあらな事をしちゃあいけませんよ」
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)