がく)” の例文
と、冷たいしずくが、襟もとへぱらと降った。——ふと、うつつに返った後醍醐は、がくとお顔を振りあげて、そのお眸を朝雲にすえたまま
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「武男、武男」と耳近にたれやら呼びし心地ここちして、がくと目を開きし千々岩、窓よりのぞけば、列車はまさに上尾あげお停車場ステーションにあり。駅夫が、「上尾上尾」と呼びて過ぎたるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
佐太郎はがくとせり、彼はそのままソッと戸を締め、夜明けぬ間に己が家に忍び走れり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
さすがに、休戦中の銃声には、剛愎ごうふくな彼も、がくとしたらしく、低い石段の途中に、その歩みを立ちすくめたまま
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは皆村人にてしかも阿園の葬式の帰りなりき、佐太郎は再びがくとしてあたりのはぜの樹蔭に身を隠したり、群は何の気もつかず、サヤサヤと私語ささやきあいつ緩々ゆるゆるその前を通りすぎたり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
辿たどりついた寝小屋には、尼も覚一も見えなかった。彼はがくとして、外を廻ってみたり、また、内へ入ってみたり
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、がくとして、疑いと、半ば、信じたくないような感情を声にして放ったのは、武田逍遥軒のほうであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええ?」老僧は、がくとして、自分の法衣ころもたもとをつかんでいる旅人をじっとしばらくのあいだ見つめていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの中納言が、それと、ここで知ったら、どんなにがくとするだろう。また、この道誉を恨むだろうか」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新九郎は脳天を鉄槌てっついでガンとやられたほどがくりとした。いや自分の耳を疑った。そしてしばらくは口もきけずに、御方の顔をまじまじとみつめているのみだった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この高氏がむほんと聞いて、そこもとが、急にがくとするいわれはなかろう。天下をくつがえす下拵したごしらえにかけては、そちらは高氏などよりも、一日早い先輩だった」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすがの四高弟も、それにはがくとして顔いろをあらためた。奇怪でならなかったこの青年の目的が、石舟斎へ近づくことであろうなどとは、誰も考えていなかったのである。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
異様な物音に、がくとして、奥から馳けて来た三名のうちの——兵九郎は、長押なげしの槍を押ッ取って来、忠右衛門は手燭をかざして、縁の角から、雨の闇を、くわっと見つめた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
董承は、がくとして、その面を見つめていたが、吉平の義心を見きわめると、今はこの人につつむ理由もないと、一切の秘事をうちあけた後、血詔けっしょう衣帯いたいをとり出して示した。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おっ! ……」がくとした兄の手が尋有の背をつよくかかえた。かかえる手もかかえられる手も氷のようだった。ただ、範宴の膝をとおす弟の涙ばかりが熱湯のようにあつい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久太郎は、がくとした。しかし重厚な眉がこういうときの意志を支えていた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うつらうつら眠っていた山木兼隆かねたかが、がくと、首をもたげて
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がくとして、みな老公の手を——いや古梅の幹を凝視した。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤房は、がくと、つい姿をくずして、唇までをわななかせた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がくと、顔をあげて、藤吉郎はそういう人のおもてを見つめた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
越前は、がくとして、何度も、そこを読みかえした。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、介はがくとしたように、胸を張って。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がくと、彼の眸がすわった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俊基は、がくとした。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がくとして……。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がくとして。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)