彼女かのをんな)” の例文
そこで細君が夫の看病をしてゐる、僕は彼女かのをんなの散歩の道連になることを申し込んだ。女は一応軽く辞退した上で僕の請を容れた。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
唯懐ただおもひき人に寄せて、形見こそあだならず書斎の壁に掛けたる半身像は、彼女かのをんなが十九の春の色をねんごろ手写しゆしやして、かつおくりしものなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一度彼女かのをんなの冷酷なる微笑に魅せられた者は自己の破滅は予期しながら何時の間にかひきつけられてしまふ。
新橋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
此落魄のうちに、彼は三千代を引張りまはさなければならなかつた。三千代は精神的に云つて、既に平岡の所有ではなかつた。代助は死に至る迄彼女かのをんなに対して責任を負ふ積であつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今ま貴女の(と花吉を一瞥いちべつしつ)つしやる通り実に気の毒でした、かし彼女かのをんなの如くして生きて居たからとて、一日といへども、一時間と雖も、幸福と云ふ感覚をつことは無かつたでせう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
赤良顔は京都に返ると見えて窓から顔を出して彼女かのをんなはなしをしてゐる
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
天の物は彼女かのをんなに如かざれば。
素描 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ああ我が当時の恨、彼が今日こんにちの悔! 今彼女かのをんなは日夜に栄のてらひ、利のいざなふ間に立ち、守るに難き節を全うして、世のれざる愛にしたがつて奔らんと為るか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かれは又三千代をたづねた。三千代は前日ぜんじつの如くしづかいてゐた。微笑ほゝえみ光輝かゞやきとにちてゐた。春風はるかぜはゆたかに彼女かのをんなまゆを吹いた。代助は三千代がおのれを挙げて自分に信頼してゐる事を知つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
我聞く、犯罪の底には必ず女有りと、まことなりとせば、彼はまさし彼女かのをんなゆゑに如何いかなる罪をも犯せるならんよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)