あながち)” の例文
他人あだしひとのいうことをまことしくおぼして、あながちに遠ざけ給わんには、恨みむくいん、紀路きじの山々さばかり高くとも、君が血をもて峰より谷にそそぎくださん」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
みましの鉤は、魚釣りしに一つの魚だに得ずて、遂に海に失ひつ」とまをしたまへども、その兄あながちに乞ひはたりき。
さりとて彼はいまかつてその友を利用せし事などあらざれば、こたびもあながちに有福なる華族を利用せんとにはあらで、友として美き人なれば、かくつとめてまじはりは求むるならん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ここより遠からねば、此の小休をやみに出で侍らんといふを、五六あながちに此のかさもていき給へ。五七いつ便たよりにも求めなん。雨は五八更にみたりともなきを。さて御住ひはいづぞ。
御住居見おきて侍れば、又こそ詣でんといふを、真女子あながちにとどめて、七五まろや、七六ゆめ出し奉るなといへば、丫鬟立ちふたがりて、おほがさひて恵ませ給ふならずや。
はやく日をえらみて三五聘礼しるしれ給へと、あながちにすすむれば、盟約ちかひすでになりて、井沢にかへりごとす。やが聘礼しるしを厚くととのへて送りれ、三六よき日をとりて婚儀ことぶき三七もよほしけり。