引挟ひっぱさ)” の例文
旧字:引挾
真白まっしろすすきの穂か、窓へ散込んだ錦葉もみじ一葉ひとは散際ちりぎわのまだ血も呼吸いきも通うのを、引挟ひっぱさんだのかと思ったのは事実であります。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
法学生の堕落したのが、上部を繕ってる衣を脱いだ狼と、虎とで引挟ひっぱさみ、縛って宙に釣ったよりは恐しい手籠てごめの仕方。そのまま歩き出した、一筋路。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主税が大急ぎで、ト引挟ひっぱさまるようになって、格子戸をくぐった時、手をぶらりと下げて見送ったお妙が、無邪気な忍笑。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「けれどもね。実は、その時の光景というのが、短銃と短刀同然だったよ。弁持と二人で、女房を引挟ひっぱさんで。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分との事のために、離座敷はなれざしきか、座敷牢ざしきろうへでも、送られてくように思われた、後前あとさき引挟ひっぱさんだ三人のおとこの首の、兇悪なのが、たしかにその意味を語っていたわ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見張員と休息員と無頼漢等を引挟ひっぱさんで、片手に一人ずつ引掴ひッつかめば、れたる者も逃げんとはせず。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
捻平はフト車の上から、うなじの風呂敷包のまま振向いて、何か背後うしろへ声を掛けた。……と同時に弥次郎兵衛の車も、ちょうどその唄う声を、町の中で引挟ひっぱさんで、がっきと留まった。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
割膝にわが小さき体引挟ひっぱさみて、渋面つくるが可笑おかしとて、しばしば血を吸いて、小親来て、わびて、引放つまでは執念しゅうねく放たざりし寛闊かんかつなる笑声の、はじめは恐しかりしが、はては懐しくなりて
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
歩行あるいたり、はて胡坐あぐらかいて能代のしろの膳の低いのを、毛脛けずね引挟ひっぱさむがごとくにして、紫蘇しその実に糖蝦あみ塩辛しおから、畳みいわしを小皿にならべて菜ッ葉の漬物うずたかく、白々と立つ粥の湯気の中に、真赤まっかな顔をして
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)