底意そこい)” の例文
なぜ自分のこの胸の内が母親には分らぬのであろう。自分一人で来て打ちけた談合をしようとせずに、訊くまでもなくもう底意そこいは明らかに見えている。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
がただし、江戸人士は、悪罵や皮肉は呈しても、めったに讃辞を送らない。殊にかれらは常に反官的であり、武士階級への反感がその底意そこいとなっている。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神尾主膳は机竜之助をして、伯耆の安綱と称せらるるこの名刀を試させん底意そこいがあって来たものと見えます。
そこでその問答の底意そこいは、己れが煩悩ぼんのうの心を打ち破って己れが心の地獄を滅却めっきゃくするために勇気凜然りんぜんたる形をあらわし、その形を心の底にまで及ぼして解脱げだつの方法とするのであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
... その底意そこい如何いかに?』フルコム答ふ—『わが南蛮四十二国、みなデウス如来にょらいを拝むによつて、苦患くげんなく乞食なく病者なし、なんぞ貧者を駆つて施物を集めんや。いま却つて我らが底意を ...
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
主水はいよいよ平伏して、御高家御同座では申しあげかねることなので、おゆるしねがいたいと言うと、宗春卿はお糸の方のほうへ底意そこいのある眼づかいをしながらニヤニヤ笑いだした。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
領主 この書面しょめんにてそう申條まうしでうあかりったり、情事じゃうじ顛末てんまつをんな死去しきょ報告しらせまた貧窮ひんきうなる藥種屋やくしゅやより毒藥どくやく買求かひもとめてそれを持參じさんし、此處これなるをんなはかなかにて自殺じさつなさん底意そこいまで、明白めいはく相成あひなったわ。
「——底意そこいを申せば、弦之丞めも、当今、皇学尊重のふうを非義とは存じられませぬ、むしろ、ひそかに王室の御衰微ごすいびをなげいている一人なのでござります」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤波は、底意そこいありげな含み笑いをして
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかも、五人の偽菩薩にせぼさつの顔色をジロリと見ると、もし自分が石見守いわみのかみ加担かたんして、いな、と一ごんッぱねれば、どういう手段しゅだんにもうったえかねない底意そこいがよめる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、賀の底意そこいには、さきにわが手で、九紋龍史進ししんを獄にくだしていた要心もあった折のことだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
既にこの金が、明らかに、外記の底意そこいを証拠だてていると見て間違いはない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)