山女やまめ)” の例文
案内者はその天井に懸けてあつた、長い釣竿を取り下してから、私一人を後に残して、夕飯の肴に供すべく、梓川の山女やまめを釣りに行つた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
女学生たちのゆう飯の膳に出たものは、山女やまめの塩焼と豆腐のつゆとひらとで、平の椀には湯葉と油揚あぶらげきのことが盛ってあった。
山椒魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
刻み煙草一服吸う位の時間を置いて、蒼白あおじろい五寸ばかりの魚が腹をかえして浮いて来た。それは山女やまめであった。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
岩魚もありはえ山女やまめもあった。みな九センチ以上の大きさで、河原に投げあげられると、それらは勢いよくはねながら、水苔みずごけの匂いをあたりにふりまくようであった。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けれども、その、むだなポオズにも、すぐ疲れて来る様子で、立ち上って散歩に出かける。宿から釣竿つりざおを借りて、渓流の山女やまめ釣りを試みる時もある。一匹も釣れた事は無い。
令嬢アユ (新字新仮名) / 太宰治(著)
鞺々とうとうと流れる渓流にすねを洗われながら、一人の若者が鉤鈎かぎばりをつけた三尺ばかりの棒を巧みにあやつってぴらりぴらりとひらめく山女やまめを引ッかけては、見る見る間に魚籠びくみたしていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は幾日かここに描き暮らして、羆の出る森の夜道を独りたどるのも苦にならなかった。ここで釣れるアメ鱒というのは、山女やまめに似て姿も味もよく、石狩源流の岩魚いわなと共に忘れがたい。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
山女やまめとか申しましたっけ——ねエばあや」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
曇天の夕焼が消えかかつた時、私たちは囲爐裡の火を囲んで、竹串にあぶつた山女やまめを肴に、鍋で炊いた飯を貪り食つた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と見ると、その朝にかぎって、扇形おうぎなり貯水池ちょすいちには小さなハヤや大きな山女やまめが、白いはらかせて死んでいるのだ。あの強そうな赤い山蟹やまがにまで、へろへろして水ぎわに弱っていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この川のかみの方へ行きますと、岩の上で釣っている人を時々に見かけますが、山女やまめ
鰻に呪われた男 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「でっかい山女やまめがいるぞ」と、一人が云うと一人は団子をみ込みながら云った。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
弁当は菱屋でこしらえてくれたもので、山女やまめの塩辛く煮たのと、玉子焼と蓮根れんこんと奈良漬の胡瓜きゅうりとをさいにして、腹のすいているわたしは、折詰の飯をひと粒も残さずに食ってしまいました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
河野はその時長沢在仲ながさわざいちゅうと云う医師いしゃを紹介者として、山女やまめを持って面会を求めた。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二三尾の岩魚いわなず浮いて来た。そのあとから山女やまめが一つ浮いて来た。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「あれは山女やまめというさかなを捕っているのです。」
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)