履行りこう)” の例文
するとけわしい兄の眼がすぐ自分の上に落ちた。自分はとうていこれでは約束を履行りこうするよりほかに道がなかろうとまた思い返した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
柴田側でも、その際、秀吉から付せられた条件を履行りこうして、秀吉の希望による勝家の養子——柴田勝豊をそれへ入れることにした。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は御約束を履行りこうして頂けるものと安心して死刑台に上ります。では、呉れ呉れも哀れな死刑囚の死に際の御頼みをお聞届け下さいます様に。
「解消したのは結婚のことばかりだ。あとの事は僕の意志継続と共に、君と契約したものは何んでも履行りこうするさ」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
非常に不満のていにてい来る事も稀々まれまれなりしが、妾はなおそれとは気付かず、ただただ両親兄弟に対し前約を履行りこうせざるを恥ずるが故とのみ思い取りしかば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
従来列国の間に戦争を防止し平和を保つために相集まって議論を交え約束に調印しても、散会すれば忘れてしまう、記憶していても、進んで約束を履行りこうしようとしない。
そこに書かれた彼の「宣言」は着々忠実な履行りこうに移されて現われてきたから——彼は、自分の求める売春婦の犠牲者を何街で発見することができるかその的確な「スパット」を知り
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その約束がいよいよ履行りこうされる日が思ったよりも実はあまりに早く来たのであった。
議会の印象 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
約束の履行りこうなどという事は、最初から深く考えなかったのみならず、遂行すいこうの時期が来た時分には、もうそれを忘れていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蜀へ対する条約履行りこうはこれで果しているからである。さらになお、呉の孫権は、この戦果と、義務の完遂を、書簡のうちに誇張して、成都へ使いを派し、蜀の劉禅りゅうぜんにむかって
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暖かき家庭を造り得たるを喜びつつ、いでや結婚当時の約束を履行りこうせん下心なりしに、悲しいかな、彼は百事の失敗に撃たれて脳のやまいき起し、最後に出京せし頃には病既に膏肓こうこうに入りて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
もしや四時までに全快して約束を履行りこうする事が出来なかったら、気の狭い女の事だから何をするかも知れない。なさけない仕儀になって来た。どうしたら善かろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
君臣のちぎりすら敝履へいりのごとく捨て去る人間もいる乱世に、きのうまで敵であった毛利の一誓紙が——どれほど文字どおりに約束を履行りこうするか? ——そこまでは考えても見ず
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一 再び約束履行りこうを迫る
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
約束なんか履行りこうした事がない。それで詰問を受けると決してびた事がない何とかとか云う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旺盛おうせいなる男ざかりの五十に達し、しかも少年期の飢餓生活と、中年期の事業欲と戦陣の禁欲生活から脱し、あらゆる条件が、煩悩ぼんのう履行りこうを自由になしうる境界へ達してきたところである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はいろいろの事情から、この夏その条件を履行りこうしなかったために、彼の父はすでに感情を害していた。それを知っている妹はまた大体の上においてむしろ父の同情者であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はこの一夏ひとなつを無為に過ごす気はなかった。国へ帰ってからの日程というようなものをあらかじめ作っておいたので、それを履行りこうするに必要な書物も手に入れなければならなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この様子では留守中るすちゅうも勝手にお茶を入れましょうを一人ひとり履行りこうしているかも知れない。亭主が云うには手前は書画骨董しょがこっとうがすきで、とうとうこんな商買を内々で始めるようになりました。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
誰かおかから来て引っ張ってくれれば好いと思う。乗り掛けたばかりならまだ陸へ戻る機会があるからである。約束も履行りこうせんうちは岸を離れぬ舟と同じく、まだ絶体絶命と云う場合ではない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中学などの少年輩までが見様見真似みようみまねに、こうしなくては幅がかないと心得違いをして、本来なら赤面してしかるべきのを得々とくとく履行りこうして未来の紳士だと思っている。これは働き手と云うのではない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「君その様子じゃ当分約束を履行りこうする訳にも行かないだろう」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)