“小魚(こうお)” の例文
ひょろ長い榛(はん)の片側並木が田圃(たんぼ)の間に一しきり長く続く。それに沿って細い川が流れて萌(も)え出した水草のかげを小魚(こうお)がちょろちょろ泳いでいる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
赤い色だの藍(あい)の色だの、普通市場(しじょう)に上(のぼ)らないような色をした小魚(こうお)が、透き通る波の中をあちらこちらと泳いでいるのが鮮やかに指さされました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いきなりパクリと竹童の帯(おび)をくわえ、わらか小魚(こうお)でもさらっていくように、そのまま、模糊(もこ)とした深岳(しんがく)の一角(かく)へ、ななめさがりにかけりだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近隣の人は皆年久しく住みたれど、そこのみはしばしば家主かわりぬ。さればわれその女房とはまだ新らしき馴染(なじみ)なれど、池なる小魚(こうお)とは久しき交情(なか)なりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
畑の麦の穂は黄色く干乾び、稲田の水はどんよりと温(ぬる)み、小川には小魚(こうお)が藻草の影に潜んだ。
土地 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
柴漬(ふしづけ)に見るもかなしき小魚(こうお)かな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
魴鮄(ほうぼう)の鰭(ひれ)は虹(にじ)を刻み、飯鮹(いいだこ)の紫は五つばかり、断(ちぎ)れた雲のようにふらふらする……こち、めばる、青、鼠、樺色(かばいろ)のその小魚(こうお)の色に照映(てりは)えて、黄なる蕈は美しかった。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柴漬(ふしづけ)にまこと消(け)ぬべき小魚(こうお)かな
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
池の周囲(まわり)はおどろおどろと蘆の葉が大童(おおわらわ)で、真中所(まんなかどころ)、河童(かっぱ)の皿にぴちゃぴちゃと水を溜(た)めて、其処を、干潟(ひがた)に取り残された小魚(こうお)の泳ぐのが不断(ふだん)であるから、村の小児(こども)が袖(そで)を結(ゆ)って水悪戯(みずいたずら)に掻(か)き廻(まわ)す。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柴漬(ふしづけ)の悲しき小魚(こうお)ばかりかな
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)