小掻巻こがいまき)” の例文
旧字:小掻卷
それのみか私はこの美くしい裲襠がその小掻巻こがいまきに仕立直されて、その頃宅にできた病人の上に載せられたのを見たくらいだから。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その暗い処に母とお末とが離れ合つて孑然ぽつねんと坐つて居た。戸棚の側には哲が小掻巻こがいまきにくるまつて、小さないびきをかいて居た。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
床を前に置炬燵おきごたつにあたっているのが房さんで、こっちからは、黒天鵞絨くろビロウドの襟のかかっている八丈の小掻巻こがいまきをひっかけた後姿が見えるばかりである。
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
足巻あしまきと名づける針金に似た黒い蚯蚓みみずが多いから、心持こころもちが悪くつて、わざと外を枕にして、並んで寝たが、う夏の初めなり、私には清らかに小掻巻こがいまき
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かりそめに敷いた蒲団ふとんの上、箱枕と小掻巻こがいまきだけのうたの姿のまま、主人の白石屋半兵衛は死んでいたのです。
(そのとき茶席へ通ずる猿戸が閉るのを彼は見た)ゆきをはそこに小掻巻こがいまきを掛け、箱枕をして横になっていたが、その部屋は女の躰臭と香料との濃厚な匂いで、せるように感じられた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分料理で斯う早く出来る訳もないし、何うした事かと女の廻り気で種々いろ/\と考えて居りまする、其のうち灯火あかりがつきますと、長治が屏風を立廻し、山風で寒いからと小掻巻こがいまき夜着よぎを持運び
枕を出して、そのつむりにあてがい、自分の小掻巻こがいまきをふわりとかけてやります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
を置き、女郎花、清らかなる小掻巻こがいまきを持ち出で、しずかに夫人のせなに置き、手をつかえて、のち去る。——
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お蔦は恥じてか、見てほしかったか、肩をひねって、まげを真向きに、毛筋も透通るようなうなじを向けて、なだらかに掛けた小掻巻こがいまきの膝のあたりに、一波打つと、力を入れたらしく寝返りした。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、ちと薄ら寒いくらいだから——って……敷くのを二枚と小掻巻こがいまき。どれも藍縞あいじま郡内絹ぐんないぎぬ、もちろんお綾さん、と言いました、わかい人の夜のもの……そのかわり蚊帳は差上げません。——
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)