嬉敷うれしく)” の例文
見るに衣裳なり見苦みぐるしけれども色白くして人品ひとがら能くひなまれなる美男なればこゝろ嬉敷うれしくねやともなひつゝ終に新枕にひまくらかはせし故是より吉三郎もお菊を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
のぶる口上に樸厚すなおなる山家やまが育ちのたのもしき所見えて室香むろか嬉敷うれしく、重きかしらをあげてよき程に挨拶あいさつすれば、女心のやわらかなるなさけふかく。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たゞ——お志保の姿が見えないのは奈何したか。人々の情を嬉敷うれしく思ふにつけても、丑松は心にう考へて、何となく其人の居ないのが物足りなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
御約束の凧こし下され、早くあげて見参らせたく、こよなう嬉敷うれしくぞんじまゐらせ候、此猩々凧しょうじょうだここそ乙女の姿には似ずとも、雲のかよひ路ふら/\としてどこをまひぶみせんとてか
俳句の初歩 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
云號いひなづけと思ひ居る事の嬉敷うれしくは思へども利兵衞殿の心底しんていかはりなければお菊にあふまじと云をお竹は無理むりに吉三郎を連來つれきたり今度は新道しんみちへ廻り庭口にはぐちの切戸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
縁あればこそ力にもなりなられてたがい嬉敷うれしく心底打明け荷物の多きさえいとう旅路の空に婚礼までして女房に持とうという間際になりて突然だしぬけ引攫ひきさらい人の恋を
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いつも飯櫃めしびつは出し放し、三度が三度手盛りでやるに引きかへ、斯うして人に給仕して貰ふといふは、嬉敷うれしくもあり、窮屈でもあり、無造作に膳を引寄せて、丑松はお志保につけて貰つて食つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
其様そんなことが丑松の身に取つては、嬉敷うれしくも、名残惜敷なごりをしくも思はれたので。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)