あね)” の例文
あねが銭湯にさそうのもことわって、兄だけになるのを待ちかまえてでもいたように、茂緒は帳場の兄のところへ寄っていった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
すると時江には、もうこのうえ手段と云って、ただ子供のようにあねの膝に取りすがり、哀訴を繰り返すよりほかにないのだった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
惣次郎が何かいうと、嘘言うそつきめ、おらを欺しやがってと、大ごえを上げて喚くのだった。妹が、あねさ嫂さと優しくしても碌な返事もしない。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
それから十年ほど経って、長平は久し振りで故郷へ又帰ってくると、あねはもう死んでいた。甥の長吉は両国の河童に売られたという噂も聞いた。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……それに、言わるれば、白粉おしろいをごってりけた、骨組の頑丈なあねというのには覚えはあるが、この、島田髷には、ありそうな記憶が少しもない。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして彼女があねの態度に対する不満と自分をあはれむかなしさとが、すっかりそのおかしさのなかに入ってしまった。
(新字旧仮名) / 素木しづ(著)
お向うのおみつさんなんざ半歳前あねが嫁に来た時は藁人形わらにんぎょうを持出す騒ぎをやりましたぜ。そいつを五寸釘でどこかの杉かなんかに打ち付けるつもりのを
昨年あねが外国でくなりました時は、取敢えずおこつを嫂の実家の墓地へ同居させてもらっておきましたが、この度兄と一緒にまつることにいたしましたので
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そうするとまたここへ訪ねてくるからね。この間も兄にきかれて困った。あねはたぶん感づいていても知らん顔を
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「よござんす。もう伺わないでも」と云ったあねは、その言葉の終らないうちに涙をぽろぽろと落した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
台察児タイチャルは居崩れて、あねに弔意を表する。喇叭らっぱの音は刻々遠のき、消えんとしている。
知っている筈だ、甲野の父上やいとは焼死しているし、花田のあね上や松之助はまだ檻禁されたままだ、われわれはできるだけ犠牲を少なくしたいが、犠牲を少なくするために、第一義を
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのことを僕が偶〻たまたま帰省したりするとあねなどがよく話して聞かせたものである。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
... 自堕落者揃いだ。おばにしてもあねにしても。……私だってこれで老父さんには敗けないつもりだからねえ」……「向家むこうの阿母さんが木村の婆さんに、今度工藤の兄さんが脳病で帰ってきたということだが、工藤でもさぞ困ることだろうと言ってたそうなが、考えてみるとつまり脳病といったようなもんさね。ヒヒヒ」
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
あねの気持を緩和しようとしたせっかくの試みが、それでさえいけないのだったら、いったい彼女はどうしたらいいのだろう。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
宿へ下がって、いよいよ最期さいごの日が近づいたと自覚した時、兄やあねにいろいろ問い迫られて、彼はとうとう、その秘密を洩らしたのかも知れない。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お向うのお光さんなんざ半歳前あねが嫁に來た時は藁人形わらにんぎやうを持出す騷ぎをやりましたぜ。そいつを五寸釘で何處かの杉かなんかに打ち付けるつもりのを
「お母さったらない、とってもそわそわしてんのよ。何でもな、あねさ、嫂さって優しくしろやだって。なんぼおらだって、それぐらいのこと言われなくたってわかってるわ。」
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
兄を攻撃するのもうそではなかったが、矢面やおもてに立つ彼をよそにしても、背後に控えているあねだけは是非射とめなければならないというのが、彼女の真剣であった。それがいつの間にか変って来た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もともと身上しんしょうの足りぬ処を、洞斎兄の学資といえば、姉の嫁、わしにはあによめじゃにい、その里方から末を見込んで貢いでおった処を、あの始末で、里をはじめ、親類もあいそを尽かせば、あね断念あきらめた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はい。徳次郎のあねでございます」と、彼女は眼をしばたたいていた。「徳蔵もほかにこれという身寄りも無し、あれ一人をたよりにしていたのでございます」
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それが、いまも見るように、滝人の頸を中途で停めてしまったのである。すると、時江はあねの素振りにいよいよ心元なく、ためらいながらどもりながらも、哀訴を続けた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あねさも行かれるといいがとよしがいうのを、こんな様子でどうすんのととしゑは笑った。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
「兄貴とあねうらむ者は、町内だけでも五人や十人じゃありません、現に——」
母もあまり心配し過ぎて、とうとうあねが解らなくなったのだ。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)