婦人ひと)” の例文
いや、もっと私の心がかきみだされることは美しい婦人ひとを見る時であった。街なんかで洋装の素晴しいひとに会うと彼の妻でないかと思う。
四年のあいだのこと (新字新仮名) / 久坂葉子(著)
「何だエ」と伯母は眼をまるくし「其様そんなえら婦人ひとで、其様そんなとしになるまで、一度もお嫁にならんのかよ——異人てものは妙なことするものだの」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
現今いま婦人ひとは、かなり個性に生きてゐるといふが、そのくせ流行はやりものに安くコビリつく。その點、古い下町の女はかなり自分に生きてゐた。
下町娘 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
それどころか、まるでこの婦人ひとの助言でも当てにしているように、自分から進んで、彼女のもとをさして急ぐのであった。
そして挨拶あいさつかはした。然し意外だつた。其の顔は初めてではなかつた。まがひもなく先刻さつき波止場で見た婦人ひとだつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
しまった口許くちもとで、黙って、ただちょいと会釈をする、……これが貴下、その意味は分らぬけれども、峠の方へくな、と言って………手で教えた婦人ひとでしょう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しゅうとはそうもなかったのですが、しゅうとめがよほどつかえにくい人でして、実は私の前に、嫁に来た婦人ひとがあったのですが、半歳はんとし足らずの間に、逃げて帰ったということで
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「ほツほ、何を長二、言ふだよ、斯様こんな老人としよりをお前、なぶるものぢや無いよ、其れよりも、まア、何様どんな婦人ひとだか、何故なぜ連れて来ては呉れないのだ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
とあるのから見ても、そうした婦人ひとで、並々の容色と見えれば、厚化粧で人目を眩惑げんわくさせる美女よりも、確かであるということが出来ようかと思われる。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「いいえ、その婦人ひとの台所の。」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あのひとって、随分失礼なひとだ。不作法ったってなんだって、教養のある婦人ひとだというのに、いつだって案内もなしで、いきなり上りこんでくるなんて我慢が出来ない。」
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
さらあんで、台所の婦人ひとがこしらえてくれたお汁粉しるこの、赤いおわんふたをとりながら、燁子さんが薄いお汁粉をき廻しているはしの手を見ると、新聞の鉄箒欄の人は、自分を崇拝している年下の男の方が
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)