大瓶おおがめ)” の例文
……その時鳩尾みずおちに巻いていたのは、高津こうづ辺の蛇屋で売ります……大瓶おおがめの中にぞろぞろ、という一件もので、貴方御存じですか。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長光寺城中の実状、いよいよ水に窮し、兵馬みなかっして、乾き死なんとするや、蓄蔵の大瓶おおがめ三個の水を、枯喪こそうして生色なき城兵のまん中に担ぎ出させ
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人々は切腹の場所を出て、ついで宝珠院ほうじゅいんの墓穴も見て置こうと、揃って出掛けた。ここには二列に穴が掘ってある。穴の前には高さ六尺余の大瓶おおがめが並べてある。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
支那皇帝がこの精力的な女皇に贈ったという堆朱ついしゅ大瓶おおがめを眺めている間、そしてこのたいして美しいとも思えぬ瓶一つのために八十年間三代の工人が働いたという説明をきいて
赤い貨車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
小さき池は、舞台の真下になりたれば、あたかもしとて、興行はじむる時、大瓶おおがめ一個ひとつ俯向うつむけてうずめたり。こは鼓の冴えさせむとてしたるなりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大瓶おおがめの水も凍り、板廂いたびさしから剣のような氷柱つららが垂れている寒空の冴えた夜半だった。——ふと、裏のおおきな木のうえを仰ぐと、それへじのぼっている人間がある。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
箕浦をかしらに柳瀬までの碑が一列に並んでいる。宝珠院本堂の背後の縁下には、九つの大瓶おおがめが切石の上に伏せてある。これはその中に入るべくして入らなかった九人の遺物である。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、いきなり鉄杖をやりのようにしごいて、大瓶おおがめの横ッぱらへガンと勢いよくッかけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのくらい念のった長虫ですから、買手が来て、蛇屋が貯えたその大瓶おおがめ圧蓋おしぶたを外すと、何ですとさ。黒焼の註文の時だと、うじゃうじゃ我一われいちに下へ潜って、瓶の口がぐっと透く。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天野酒の大瓶おおがめを番屋に持ちこんで、翌晩などは、みな酔いつぶれていたらしい。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縦横たてよこに並んだのは、いずれも絵の具の大瓶おおがめである。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
範宴は桶の水を、大瓶おおがめにあけて、また、川の方へ水を汲みに行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
担桶にないに、水を汲んで、方々の大瓶おおがめっておけ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)