大殿おおとの)” の例文
箪食壺漿たんしこしょうの歓びに沸きたってはおるが、かんじんな相馬の大殿おおとの将門ぎみが、なんと、ややもすれば、お淋しそうな、お顔つきではあるまいか。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大殿おおとのより歌絵うたえとおぼしく書たる絵をこれ歌によみなしてたてまつれとおおせありければ、屋のつまにおみなをとこに逢ひたる前に梅花風に従ひて男の直衣のうしの上に散りかかりたるに
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
家康は約束やくそくどおり甚五郎をし出したが、目見えの時一言も甘利の事を言わなんだ。蜂谷の一族は甚五郎の帰参を快くは思わぬが、大殿おおとの思召おぼしめしをかれこれ言うことはできなかった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大殿おおとのにはそれを聞こしめされて、この古屋敷は変化へんげの住みとみゆるぞ、とく狩り出せよとの下知にまかせて、われわれ一同が松明たいまつ振り照らして、床下から庭のすみずみまで隈なくあさり尽くしたが
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『さ。よう、おやすみなされませ。大殿おおとののてまえは、朝となって、木工助が、よいようにしておきまするで。……お案じのう』
「いやゆうべ、それがしの手に、敵の一将黄祖という者を生擒いけどってありますから、生ける黄祖を敵へ返して、大殿おおとのの屍を味方へ乞い請けましょう」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを思うても眠られぬし、また、日陰ひかげてきのいましめをうけておわす、大殿おおとののご心中しんちゅうを思うても、なかなか安閑あんかんとねている場合ではございませぬ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『もしや、喧嘩けんかのちまたにでもと、取り越し苦労の限りもなく、寝よと、大殿おおとのに申されても、寝られたことではござりませなんだ。……でもまあ、ようこそ、ようこそ』
かりにも、大殿おおとのへ、うそをつく木工助のせつなさを、すこしは、お察しくださりませ。……堀川の叔父御さまのおやしきにて、和子様には、御腹痛で寝ておられました。
「そう仰せられますと、いろいろな事どもが、思い出されて参ります。……お父君の大殿おおとのさまにおかれても、お姉君の糸姫いとひめさまにも、ずいぶんご苦労をおかけあそばしました」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうとも、死をいとうのではないが、こんど、木隠こがくれとこの忍剣にんけんがおともをしてきて、首尾しゅびよう大殿おおとののご安否あんぴをつきとめねば、小太郎山こたろうざんにのこっている、小幡民部こばたみんぶ咲耶子さくやこ小文治こぶんじなどにも笑われ草……
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいえ、大殿おおとのに召されて、西曲輪にしぐるわへお越しになりました」
雲中うんちゅう大殿おおとの
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)