外濠線そとぼりせん)” の例文
鳩居堂きゅうきょどう方寸千言ほうすんせんげんという常用の筆五十本線香二束にそくを買い亀屋かめやみせから白葡萄酒しろぶどうしゅ二本ぶらさげて外濠線そとぼりせんの方へ行きかけた折であった。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
外濠線そとぼりせんの電車は濠に向った方から九月の日をうけつつあった。客の中には立って窓の板戸を閉めた人もあった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
丸善から三越へ回って帰る時には、たいていいつも日本銀行まで歩いてそこから外濠線そとぼりせんに乗る。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その時、外濠線そとぼりせんの電車が、駿河台の方から、坂を下りて来て、けたたましい音を立てながら、私の目の前をふさいだのは、全く神明しんめい冥助めいじょとでも云うものでございましょう。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その内を毎月五円ずつ会社の方で預って積んでおいて、いざと云う時にやります。——奥さん小遣銭で外濠線そとぼりせんの株を少し買いなさらんか、今から三四個月すると倍になります。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生、お茶の水から外濠線そとぼりせんに乗り換えて錦町三丁目のかどまで来ておりると、楽しかった空想はすっかりめてしまったようなわびしい気がして、編集長とその陰気な机とがすぐ眼に浮かぶ。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
水道橋から外濠線そとぼりせんに乗った時は、仰せに因って飯田町なる、自分の住居すまいへ供をして行ったのであるが、元来その夜は、露店の一喝と言い、途中の容子と言い、酒井の調子がりんとして厳しくって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
代助はかるはこが、軌道レールうへを、苦もなくすべつてつては、又すべつてかへる迅速な手際てぎはに、軽快の感じを得た。其代り自分とおなみちを容赦なく往来ゆきゝする外濠線そとぼりせんくるまを、常よりは騒々しくにくんだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
外濠線そとぼりせんへ乗って、さっき買った本をいい加減にあけて見ていたら、その中に春信はるのぶ論が出て来て、ワットオと比較した所が面白かったから、いい気になって読んでいると、うっかりしているあいだ
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
神田かんだの高等商業学校へ行くつもりで、本郷四丁目から乗ったところが、乗り越して九段くだんまで来て、ついでに飯田橋いいだばしまで持ってゆかれて、そこでようやく外濠線そとぼりせんへ乗り換えて、御茶おちゃみずから
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)