塵埃ちりほこり)” の例文
常には目立たぬ塵埃ちりほこりが際立つて目につく、職員室の卓子テーブルの上も、硯箱やら帳簿やら、皆取片付けられて了つて、其上に薄く塵が落ちた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
奥殿の床板は塵埃ちりほこりの山をし、一方には古びたおお太鼓がよこたわり、正面には三尺四方程の真赤まっかな恐ろしい天狗の面がハッタとこちらを睨んでござる。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
村をはずれると、街道は平坦へいたん田圃たんぼの中に通じて、白い塵埃ちりほこりがかすかな風にあがるのが見えた。機回はたまわりの車やつかれた旅客などがおりおり通った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
こゝも用無き部屋なれば、掃除せしこともあらずと見えて、塵埃ちりほこり床を埋め、ねずみふんうつばりうづたかく、障子ふすま煤果すゝけはてたり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
このほかにこの門から得た経験は、暗い穴倉のなかで、車に突き当りはしまいかと云う心配と、煉瓦れんがに封じ込められた塵埃ちりほこりを一度に頭から浴びると云う苦痛だけであった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なれども思い切って御本尊様を厨子ずしの中から抱え卸して、この方丈に持って参りまして、眼鏡をかけてよくよくあらためて見ますと、一面の塵埃ちりほこりでチョット解りにくうは御座いますが
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
塵埃ちりほこりのそのつややかなる黒髪をけがす間もなく、衣紋えもんの乱るるまもなくて、かうはなりはてられ候ひき。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひさしかたぶきたるだいなる家屋の幾箇いくつとなく其道を挾みて立てる、旅亭の古看板の幾年月の塵埃ちりほこりに黒みてわづかに軒に認めらるゝ、かたはら際立きはだちて白く夏繭なつまゆの籠の日に光れる、驛のところどころ家屋途絶とだえて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
も知れぬ塵埃ちりほこりのむら/\と立つあいだを、もすればひら/\と姿の見える、婦人おんなの影。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すッとこかぶり、吉原かぶり、ちょと吹流し、と気取るも交って、猫じゃ猫じゃの拍子を合わせ、トコトンとむしろを踏むと、塵埃ちりほこり立交る、舞台に赤黒い渦を巻いて、吹流しが腰をしゃなりと流すと
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)