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垂氷
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たるひ
黄袗は古びて
赭く、四合目辺にたなびく
一朶の雲は、
垂氷の如く
倒懸して満山を
冷やす、別に風より
迅き雲あり、大虚を
亘りて、不二より高きこと百尺
許なるところより、
之を
翳し
垂氷となりて一二寸づゝ
枝毎にひしとさがりたるが、
青柳の糸に白玉をつらぬきたる如く、これに
旭のかゞやきたるはえもいはれざる
好景なりしゆゑ、堤の
茶店にしばしやすらひてながめつゝ
世は
漸く春めきて青空を渡る風
長閑に、
樹々の
梢雪の衣脱ぎ捨て、家々の
垂氷いつの間にか
失せ、軒伝う
雫絶間なく白い者
班に消えて、
南向の
藁屋根は
去年の顔を今年初めて
露せば、
霞む
眼の
老も
塔が島
馬酔木しみ立ち岩床に暁かけて凝る
垂氷これ
大駿河裾野の家に
垂氷する冬きにけらし山は真白き
垂氷は光り、無情の雪降る白き
夜よ。