土壇場どたんば)” の例文
それでいながら、俺にはまだ死ぬ覚悟がつかない——このに及んで、この土壇場どたんばのぞんで! 俺はいったいどうしたらいいのだ?
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
もつとも、おめえには其處までは聽かせなかつたよ、土壇場どたんばになつて、聟の身代りになるのが嫌なんて言ひ出されると困るからな」
まだまだ最後の土壇場どたんばまでには、余る程時間がある。わしの智恵が七つ道具の考案ばかりだと思っては、大きな間違いですぞ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかも是が非でも自分の信仰心を示さなくっちゃならないような土壇場どたんばじゃないかい! おいどうだ、きょうだい、一理あるだろうじゃないか?
鬼に喰われずにここまで来たんではない。これから鬼に対面して、喰われるか、喰うかの土壇場どたんばのつもりで来ているのだ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いろいろ苦労はしたつもりであったのに、こういう凄惨な人間の土壇場どたんばに、立ちあったことは、はじめてであった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
不愉快なことは一日延ばしに先へ延ばして土壇場どたんばへ追い詰められるまでは云い出し得ない自分の弱い性質を思うと
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私はいつでも、まだ二十日もある、十日あると思いながら愚図愚図ぐずぐずしているうちに、ずるずると土壇場どたんばに追い込まれてしまうのがおきまりなのであった。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
「いや、いかに忠義をよそおうても、最後の土壇場どたんばへ来ると、けのかわがずにいられなくなるのだろう」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところで現在わたしは、ええ一つ、にせ札でも作ってやろうか、といった土壇場どたんばでな。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
土壇場どたんばでくるっと背を向けそうだ、という感じがだんだんつよくなって来た
土壇場どたんばへじゃまがはいって、手のうちの玉をおとした思いのところへ、見ると、弥生がもとより詳しいことはしらないが、なんでもみなが命がけの大さわぎをしてきたその本尊ほんぞんのふたつの刀を
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「一色道庵は家へ帰ってもろくに物も言わず、土壇場どたんばえられたような陰気な顔をしているのはどんな訳でしょう、ね親分」
こうして六人の人間は、やりきれない土壇場どたんばに迫って、九死一生の思いをしているのに、ほかの連中は一向そのことを解することができませんでした。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
立ち上がって、芝生しばふのはずれのがけはなまで行って、じっと前の青黒い海を見つめていたが、飛びこむ気にはなれなかった。いよいよの土壇場どたんばまでには、まだ少しあいだがあると思った。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
追ひ詰められるまでは瓢箪鯰ひょうたんなまずに受け流してゐて、土壇場どたんばへ来るとヒヨイと寝返る。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「……いよいよの土壇場どたんばいざとなったら、この呉用が、左の手で、こうひげをひねる。……と見たら、おのおのは一せいに、隠し持った短剣でな。……よろしいか、髯が合図でおざるぞ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
状勢は最後の土壇場どたんばに来ていると、判断された。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「一色道庵は家へ歸つてもろくに物も言はず、土壇場どたんばに据ゑられたやうな陰氣な顏をして居るのはどんな譯でせう、ね親分」
追い詰められるまでは瓢箪鯰ひょうたんなまずに受け流していて、土壇場どたんばへ来るとヒョイと寝返る。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だが、底知れぬ明智の胆力は、この土壇場どたんばを平気で笑い飛ばすことが出来た。虚勢と言えば虚勢である。併し、彼の心の内に一種不思議な感じが湧上っていた。何かしら神秘な予感があった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
多くは、見つかった土壇場どたんばでやる遁走法だが、今夜の場合はそうでない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これからが土壇場どたんばだ」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平次と八五郎を迎へた番頭の仲左衞門は、土壇場どたんばに引据ゑられた囚人めしうどのやうに、引ゆがんだ顏をして居ります。
「やかましいわえ、もういやも応も、この土壇場どたんばでいわすものか」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は勝ちました。土壇場どたんばですつぽかして、駒次郎に首でもくゝらせようと思つたのが、あんまり執拗しつこくからみ付かれて、ツイ庖丁を振り上げて了ひました。私は娘を
追い詰められた土壇場どたんばである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は勝ちました。土壇場どたんばですっぽかして、駒次郎に首でもくくらせようと思ったのが、あんまり執拗しつこく絡みつかれて、ツイ庖丁を振り上げてしまいました。私は娘を
風太郎も名物の茶碗を惜しんだものか、三日の晝過になつても返して來ず、友白はいよ/\土壇場どたんばに坐つた心持で、日頃の落着きも失つて、奧と門口との間にお百度を踏んで居ります。