四明しめい)” の例文
ふたりの下僕しもべと、ひとりの童子をつれ、四人づれで今、四明しめいだけの谷道から上って来たのであるが、ふと光秀のすがたを見かけると
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼に、比叡ひえい四明しめい大紅蓮だいぐれんを見、耳に当夜の惨状を聞かされていた京洛きょうらくの人々は、信長が兵をひいて下山して来ると聞くと
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四明しめいだけのうしろに、夕雲の燦爛さんらんをとどめて、陽は落ちかけていた。——湖上にも虹のような光芒こうぼうが大きく走って、水面は波騒なみさいを起こしていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四明しめいたけの天井を峰づたいに歩いて、山中やまなかを経て滋賀しがに下りてゆけば、ちょうど三井寺のうしろへ出ることができる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春も二月の末頃、その四明しめいヶ岳だけふもとに近い湖畔の宿場に、三度笠をかぶって小風呂敷を腕頸うでくびに結びつけた商人あきんどていの男が、ふらりと坂本の茶店をさし覗いて
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、四明しめいの山ふところから飛んでくる氷った雪か、また灰色の雲がこぼしてゆくあられか、白いものが、小紋のように、ひとしきり音をさせて沢へ落ちてきた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今にも、四明しめいだけ彼方かなたから吉水の一草庵におおいかぶさってくるように険悪な風雲を感じながら、さて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空を見あげると、一面に、まッ黒なちぎれ雲——逢坂山おうさかやまの肩だけに、パッと明るい陽がみえるが、四明しめいの峰も、志賀粟津しがあわづの里も、雨を待つような、灰色の黄昏たそがれぐもり。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の打明けた話によると、亀山六万石の城主松平龍山公はもうよわい七十に近い老体であって、とうから、京都の洛外らくがい四明しめいだけの山荘に風月を友として隠居しておられる。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はやく落ちてゆけ。搦手からめてを出て山づたいに、四明しめいだけを越えればなおのがれる先はあろう。とかくして、われら一族どもの足手まといになってくれるな。はやく、はやく」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
坂本城の余燼よじんは消え、墨の如き湖や四明しめいだけの上を、夜もすがら青白い稲光いなびかりひらめきぬいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のみならず、一山諸房には鐘があって、すわといえば、九十九鐘の梵音ぼんおんが一時に急を告げて坂本口を包んでしまう。まだ峰には雪があるから四明しめいへ逃げのびるにはやっかい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半刻はんときの後には、彼はすでに馬上だった。星青き夜空の下、三千の人馬と、炬火たいまつの数が、うねうねと湖畔の城をで、松原をい、日吉坂を登って、四明しめいだけ山裾やますそへかくれてゆく。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大鷲の神経しんけいは、かかる火花をちらす活闘かっとうが、おのれの背におこなわれているのも、知らぬかのように、ゆうゆうとしてつばさをまわし、いま、比叡ひえいみね四明しめいたけの影をかすめたかとみれば
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、大廂おおびさしからすぐ仰げる四明しめいだけの白雲を仰ぎ合っているところであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四明しめいヶ岳だけへ——四明ヶ岳へ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)