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唯吉
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たゞきち
唯吉は、
襟許から、
手足、
身體中、
柳の
葉で、さら/\と
擽られたやうに、
他愛なく、むず/\したので、ぶる/\と
肩を
搖つて
もの
干越に、
蓑を
着て
渡りたい
銀河のやうに
隅田川が
見えるのに、
葉が
茂る
頃は
燕の
羽ほどの
帆も、ために
遮られて、
唯吉の
二階から
隱れて
行く。
と
靜な
聲で、
慰めるやうに
窓から
云つたが、
其の
一言から
冷たくなりさうに、
妙に
身に
染みて、
唯吉は
寂しく
聞いた。