くは)” の例文
すると或時、子鶉がうしろをむけて虫をつゝいてゐるのを見て、狐は突然飛びかゝつて、鶉の尾の方をくはへてしまひました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
『ハ? ハ。それア何でごあんす……』と言つて、安藤はそつと秋野の顔色を覗つた。秋野は黙つて煙管をくはへてゐる。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
入違いれちがつて這入はいつてたのは、小倉こくらはかま胸高むなだか穿締はきしめまして、黒木綿紋付くろもめんもんつき長手ながて羽織はおりちやくし、垢膩染あぶらじみたる鳥打帽子とりうちばうしかぶり、巻烟草まきたばこくはへてながら、書生
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
蛙の肉に附けて置いた紙のきれで、それをくはへて飛んで行く蜂の行方を眺めると、巣の在所ありかが知れました。小鳥の種類の豐富なことも故郷の山林の特色です。
なんです、あきらさん、鉛筆なんかくはへて……そんなにおなかいたんですか? それではと……。今日はちよつと六ヶ敷いお話ですから、ぼんやりしてるとわかりませんよ。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ボチセリイの「春」と云へば其れは此処ここの美術学校の絵画館で見る事が出来た。写真版で見た時むかつて右手のつたの葉をくはへた女の形をいやだと思つたが実物に対しても同じ感を失はなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
と、云ふと、狐はその一枚をくはへ取る仕掛になつてゐた。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
薫れりし花の冠をくはへてゐた。
光景ありさまに、姑も笑へば、お妻も笑つて、『まあ、可笑をかしな児だよ、斯の児は。』と乳房を出して見せる。それをくはへて、泣吃逆なきじやつくりをしながら、そつと丑松の方を振向いて見て居る児童こどもの様子も愛らしかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)