吝嗇りんしよく)” の例文
一つフロツクコートで患者くわんじやけ、食事しよくじもし、きやくにもく。しかれはかれ吝嗇りんしよくなるのではなく、扮裝なりなどにはまつた無頓着むとんぢやくなのにるのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ことわりければ當家に幼年えうねんの頃より奉公して番頭と迄出世しゆつせをなし忠義無類むるゐ世間せけんにて伊勢屋の白鼠しろねずみと云ひはやし誰知らぬ者も無き評判の久八は日頃より主人の吝嗇りんしよくなるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
悪い意味に使つて置いて、いかんいかんと威張つてゐるのは、菜食を吝嗇りんしよくの別名だと思つて、天下の菜食論者を悉しみつたれ呼はりするのと同じ事だ。そんな軽蔑が何になる。
芸術その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
文次郎とお菊は、素より繼母の深い心も知らず、唯もうお嘉代の世にもまれなる吝嗇りんしよくに愛想を盡かし、日頃心ひそかに怨んで、暫く江戸から姿を隱さうと、相談してゐるのでした。
一三庁上ひとまなる所に許多あまたこがねならべて、心をなぐさむる事、世の人の月花にあそぶにまされり。人みな左内が行跡ふるまひをあやしみて、吝嗇りんしよく一四野情やじやうの人なりとて、つまはじきをしてにくみけり。
僕はなぜ父はそんなに吝嗇りんしよくだらうかなどと思ひながら父の後ろを歩いたのであつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
思慕渇仰に燃えた狂信的な古の修行人の敬虔なる衝動とは異つた吝嗇りんしよくな心からではあるけれども、圭一郎は、吸さしのバットの上に熱い涙を、一滴、二滴、はふり落すこともあるのであつた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
はらんと思ひ日夜工夫くふうなし居たりしが茲に甚兵衞は先頃より日雇ひようなどにやとはれし南茅場みなみかやば町の木村道庵きむらだうあんと云醫師あり獨身どくしんなれども大の吝嗇りんしよく者ゆゑ小金を持て居るよしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
多の市の非道と吝嗇りんしよくは年と共につのるばかり、到頭吉三郎とお濱の仲まで割いて、千兩の金がまとまつたのを機會に、いよ/\この月のうちには、京都へ上ることに決めてしまつたのでした。
吝嗇りんしよくで、慳貪けんどんで、恥知らずで、怠けもので、強慾で——いやその中でも取分け甚しいのは、横柄で高慢で、何時も本朝第一の絵師と申す事を、鼻の先へぶら下げてゐる事でございませう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかるに此伊勢屋五兵衞と云は古今稀ここんまれなる吝嗇りんしよく人にて其しはき事譬ふるに物なく所謂いはゆるつめに火を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お嘉代の吝嗇りんしよくを憎む心に燃え、内々は若い二人の相談相手にまでなつて居た有樣で、三日前お嘉代がされ、三百兩の大金が盜まれたと聞いた時、ハツと思ひ當つたのも無理のないことでした。