厚顔あつかま)” の例文
旧字:厚顏
並木 ねえ、君、久し振りで会つて、こんなこと頼むのは厚顔あつかましいやうだが、都合がよかつたら二十円ばかり貸してくれないか。
屋上庭園 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ですから、もう私は、あなたに向って、愛してくださいなどということは、厚顔あつかましゅうていえませんし……また、いえた義理でもない体ですの。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
色好みの喜平次は思わずも引きつけられて、厚顔あつかましくも女に言い寄ると、案外容易になびいて、二人は怪しい夢を結ぶ。
暴風雨の夜 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「あなたはここでなにをしているんです?……大池が死んでからまで、ベッドに這いこもうなんて、あんまり厚顔あつかましすぎるわ。恥ということを知らないの」
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「でも、お前のことを頼むとは、いかに厚顔あつかましくも言出せなかった——どうしても俺には言出せなかった」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とにかく、これに関してはやはり『野鳥』の読者の中に知識を求めるのが一番の捷径しょうけいであろうと思われるので厚顔あつかましくも本誌の余白をけがした次第である。(昭和十年二月『野鳥』)
鴉と唱歌 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
どうにもヤリキレヌから厚顔あつかましい願いだけれど、もう一晩だけ泊めて欲しい、その代りさっきのような、あんな立派な部屋でなくても結構だから……納屋なやの隅でも、かまいませんからと
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
だが、わたくしはお逢いしていいのだろうか、お逢いするほどわたくしは厚顔あつかましい女であろうか。わたくしはもうお逢いしたい、お逢いすることによってすべてをゆだね凡てを忘れたいのだ。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
女房は厚顔あつかましい女を思うさま恥かしめてやろうと思った。
宝蔵の短刀 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「この度はまた、厚顔あつかましいお取なしを願い出、赤面至極に存じまするが、何分よろしくお力添えの程お願い申し上げます」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、川魚と缶詰の野菜を取合せた場末らしい料理が運ばれ、給仕の女中が厚顔あつかましく二人に向ける視線を、千種はくすぐつたく感じながら、箸を動かした。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
自分は事を好むほど若くはないつもりだが夫婦の厚顔あつかましさがひどく癇にさわり、無理にも六階の住人を引っぱってきて、こっぴどくとっちめてやりたくなった。
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
初対面からちと厚顔あつかましいようではあったが自分は生来絵が好きでかねてよい不折の絵が別けても好きであったからついでがあったら何でもよいから一枚れまいかと頼んで下さいと云ったら快く引受けてくれたのは嬉しかった。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのひとが父親なら、いやなところを見せたくなかったが、青年の厚顔あつかましさが我慢ならなかった。むごいほどに手を払いのけると、サト子は、強い声で言った。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
でもなお、しつこく何か言いながら、馴々なれなれしげに寄って来る山伏なので、その厚顔あつかましさを叱るように、また
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんといふ厚顔あつかましさ、なんといふ跳ねつ返り! しかも、かうして会つてみて、あの女のどこにそんなものが、隠されてゐるのか、まつたく不思議なくらゐである。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
『わが身ながら、余りといえば、厚顔あつかましいお願い事をして、この御恩義をどうしてよいか分りませぬ』
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ひとりでに言葉が辷りだしたが、その場の調子で、不自然だとも厚顔あつかましいとも思わなかった。
虹の橋 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
客引と、モデルのふた役という厚顔あつかましいことを、勇気をだしてやってのけなくてはならない。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
朗々と、そう云いながら、男は厚顔あつかましくも庭木戸をあけて、中へはいって来るのであった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
書面をもって、厚顔あつかましくも、お願い申しあげたわが子とは、それに背負わせて来た幼児でござる。この戦陣の中、明日にも城とともに相果てる身をもちながら、なお煩悩ぼんのうな親心とおわらい下さるまい。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この前のような短兵急に、厚顔あつかましい押しの一手で
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)