利巧りこう)” の例文
それに利巧りこうだから外へは出さないけれども、あれでなかなか慢気まんきが多いのよ。だからそんなものをんな取っちまわなくっちゃ……
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あいつもずるいがあっしも利巧りこうじゃあねえ、かたちからするとこっちが乗り出した恰好で、あいつの云い草じゃねえが、まったくなっちゃあいません」
綺麗きれいかときかれても、わからない、と答えるだろう。利巧りこうかいといわれても、どうだか、としか返事できないだろう。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「そうだ、これなら大丈夫だいじょうぶ。ねえさるさん、お前は猿智慧さるぢえといって、たいそう利巧りこうだそうだが、案外あんがい馬鹿ばかだなあ。今私が大蛇おろち退治たいじてあげるから、見ていなさいよ」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「いいえ、だからそう言ったじゃないの。なんとも思ってやしないわよ、って。いいのよ、あたしは利巧りこうなんですから。ただね、時々は、でえじにしてくんな。」
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
などと世話をやくのを、利巧りこうぶっても老人ふうになってしまったこの女は、自分が死んでしまえばどこへ行くであろうと、そんなことも想像して浮舟は悲しかった。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そして自ら真ッ先にそれに服従することによって、同じ服従を万民に強要するのである。これは利巧りこうな方法であった。そして、この原形を発案したのは中大兄皇子であった。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
と畑君は利巧りこうだから本気にしない。しかし誰が社長に信用があるかということについては常に私を権威者として消息を聞きたがったものだ。ところが昨今はもう悉皆すっかりいけない。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「どうせ君は零点にきまっている。はじめからゆっくりあるいて行く方が利巧りこうだよ。」
青年の思索のために (新字新仮名) / 下村湖人(著)
章介 ああ、利巧りこうなようでも女は女だ。共にアジアの形勢を論ずるには足らんな。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
「どうです。私ははじめから兄さんは利巧りこうで、ほんとに金なんかくれることはないといったじゃありませんか。どうです。これは兄さんがお前さんを殺そうとしていることじゃないの。」
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「あなたに似て利巧りこうだといいわねえ。」
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「じゃ利巧りこうか?」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
過去の不可思議を解くために、自分の思い通りのものを未来に要求して、今の自由をほうり出そうとするお前は、馬鹿かな利巧りこうかな
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
からだつきは小さいが、利巧りこうで、たいへんな暴れん坊だった。その点は父の織部よりも、隼人の幼時に似ているらしい、知人からよく昔の隼人にそっくりだと云われた。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あの宮様は騒がしいくらい御多情な方でね、利巧りこうな若い女房は御奉仕がいたしにくいそうですよ。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
悩乱のうらんのうちにまだ一分いちぶん商量しょうりょうを余した利巧りこうな彼女は、夫のかけた鎌をはずさずに、すぐ向うへかけ返した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
源氏は相手の身柄を尊敬している心から利巧りこうぶりを見せる洒落気しゃれぎの多い女よりも、気の抜けたほどおおようなこんな人のほうが感じがよいと思っていたが、襖子の向こうで
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ただうわっつらな感情で達者な手紙を書いたり、こちらの言うことに理解を持っているような利巧りこうらしい人はずいぶんあるでしょうが、しかもそこを長所として取ろうとすれば
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
辞表の事はいざとなるまでそのままにしておいても差支さしつかえあるまいとの話だったから、山嵐の云う通りにした。どうも山嵐の方がおれよりも利巧りこうらしいから万事山嵐の忠告に従う事にした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今まで婦人がただけのお住居すまいであって、規律のくずれていたのを引き締めて、少数の侍を巧みに使い不都合のないようにしているのも、皆一人の大和守が利巧りこうな男だからである。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
静かな性質を少し添えてやりたいとちょっとそんな気がした。才走ったところはあるらしい。碁が終わって駄目石だめいしを入れる時など、いかにも利巧りこうに見えて、そして蓮葉はすっぱに騒ぐのである。
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
良人おっとの不名誉になると思っては、遠慮して来客にも近づきませんし、とにかく賢妻にできていましたから、同棲どうせいしているうちに利巧りこうさに心が引かれてもいきましたが、ただ一つの嫉妬しっと
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
微笑しながら言っている様子で、利巧りこうな惟光はすべてを察してしまった。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
随身は利巧りこう者であったから、つれて来ている小侍に
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)