初鰹はつがつお)” の例文
目に青葉やま時鳥ほととぎす初鰹はつがつお。江戸なる過去の都会の最も美しい時節における情趣は簡単なるこの十七字にいいつくされている。
有りようの処は初鰹はつがつおを戴いてから煮て食うわけには参りませぬじゃ。まことにはや因果でござる。はいはい南無阿弥陀仏なむあみだぶつ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さっ来い! 御曹子の新九郎は生きているぞ、酔っちゃいるがこの初鰹はつがつおは、うぬらの手掴みにはちと難かしい、それとも見事料理してみる気なら、庖丁を
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虚子先生行春ゆくはるの感慨御同様惜しきものに候。然る所小生卒業論文にて毎日ギュー。閲読甚だ多忙。随って初袷の好時節も若葉の初鰹はつがつおのと申す贅沢ぜいたくも出来ず閉居の体。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
江戸の町々がすっかり青葉につづられて、時鳥ほととぎす初鰹はつがつおが江戸っ子の詩情と味覚をそそる頃のことです。
武士も町人も奢侈おごりに耽った。初鰹はつがつお一尾に一両を投じた。上野山下、浅草境内、両国広小路、芝の久保町、こういう盛り場が繁昌した。吉原、品川、千住こつ、新宿、こういう悪所が繋昌した。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのうちに今年の春もあわただしく過ぎて、初鰹はつがつおを売る四月になった。その月の晴れた日に勘蔵が新らしい袷を着て、干菓子のおりを持って、神田三河町の半七の家へ先ごろの礼を云いに来た。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
次に、「初鰹はつがつお」とは、舌の世界です。味覚の世界です。風邪かぜをひいて熱でもあれば、何を食べてもおいしくないのは、舌があってもないと同じです。味覚がないから、少しも味がないわけです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
鎌倉を生きて出でけん初鰹はつがつお 芭蕉ばしょう
いなせな縞の初鰹 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
朝比奈が曾我を訪ふ日や初鰹はつがつお
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
初鰹はつがつお
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
同じ白石の在所うまれなる、宮城野と云い信夫しのぶと云うを、芝居にて見たるさえ何とやらん初鰹はつがつおの頃は嬉しからず。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五月も過ぎたある日、青葉によし、初鰹はつがつおによし、そして時鳥ほととぎすによしという結構な日をぼんやりこもっていると、ときどきはこんな災難にも逢わなければならぬ平次です。
初鰹はつがつおも過ぎ、時鳥ほととぎすにも耳飽きて、あわせを脱いだ江戸の夏は、涼み提灯ぢょうちんの明りに、大川ばたから色めき立って、日が暮れると一緒に、水へ水へと慕って出る人がおびただしい。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼には青葉山ほととぎす初鰹はつがつお
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
青葉と初鰹はつがつお時鳥ほととぎすで象徴される江戸の五月は天気さえよければ、全く悪くない心持でした。
品川の海は、いいぎだった。——それに、五月の初旬はじめ、季節もいい。遊び半分の太公望が出かけるには絶好である。鎌倉船は、初鰹はつがつおをつんで朝から何艘なんばいも日本橋の河岸かしへはいった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
穿うがってるぜ、畜生め、まったく御改革の今日びじゃ、五十五貫の初鰹はつがつおどころか、一口一分の初茄子せえ、江戸ッ子の口にゃえらねえ、んのことはねえ、八百八町、吝嗇漢のお揃いとけつからア
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)