兵児へこ)” の例文
丁度ちやうど其時大島の重ねに同じ羽織を着て薄鼠の縮緬の絞りの兵児へこ帯をした、口許くちもとの締つた地蔵眉の色の白い男が駅夫えきふに青い切符を渡して居た。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
白っぽい浴衣ゆかた兵児へこ帯をしめ、田舎臭い円顔に口髯くちひげはやした年は五十ばかり。手には風呂敷に包んだものを持っている。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
朝枝は水っぽい花模様の単衣ひとえを着、薄赤とき色の兵児へこ帯を垂らしているが、細面の頸の長い十六の娘で、その四肢てあしは、佝僂せむしのそれのように萎え細っていた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
実をいふと、氏はその日川の容子ようすを見に出掛けたので、魚籠びくの用意だけはしてゐなかつた。で、兵児へこ帯を縦にいてうをあぎとくゝつて、その儘水におよがせておいた。
道の小半町こはんちょう、嬉しそうに、おかしそうに、ながめ視め、片頬笑みをしながらいて歩行あるいたのは、糊のきいた白地の浴衣ゆかたに、絞りの兵児へこ帯無雑作にぐるりと捲いた、耳許みみもとの青澄んで見えるまで
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三四郎は肉汁そつぷひながら、丸で兵児へこ帯の結目むすびめの様だと考へた。其うち談話が段々はじまつた。与次郎は麦酒ビールむ。何時いつもの様にくちを利かない。流石さすがの男も今日けふは少々つゝしんでゐると見える。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
夜光を背にしてよくは見えないが、つんつるてんの紺飛白こんがすりに白い兵児へこ帯を太く巻いて、後世の英傑西郷先生の元祖みたいな風体いでたちだ。髪は、戦国風の太茶筌ふとちゃせん。釣竿を差し伸べて片手に魚籠びくげている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
同じような白い浴衣に黒い兵児へこ帯を締めていたことは確かだ。
石塀幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
九州もんな横道もん青竹割つて兵児へこにかく
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)