元々もともと)” の例文
「どうかなあいつ、古藤のやつは少し骨張ほねばり過ぎてる……が悪かったら元々もともとだ……とにかくきょうおれのいないほうがよかろう」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
早速さっそく酒を取り寄せて、石にぶっかけてみました。けれども、元々もともとからの石ですから、酒をかけたくらいで正覚坊になりようわけはありません。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
なぜならばかの女は、天性にも教養にも、こんなとき邪魔ものになるような良心めいたものは元々もともと持っていなかった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでコックの春吉はすっかり憤慨ふんがいし、この復讐ふくしゅうを計画したわけなのだ。彼は元々もともと、極端な享楽児きょうらくじで、趣味のために、いろいろな職業を選び、転々てんてんとして漂泊さすらいをした。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
元々もともと武芸ぶげい家柄いえがらである上に、まれ弓矢ゆみや名人めいじんで、その上和歌わかみちにも心得こころえがあって、礼儀作法れいぎさほうのいやしくない、いわば文武ぶんぶ達人たつじんという評判ひょうばんたかい人だったのです。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さりとて、見たい気もいたさぬ。おる所にいさせて天意におまかせしておこう。元々もともと、迷い子にした子でござれば
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗任むねとうはいったん義家よしいえいのちたすけてもらったので、たいそうありがたいと思って、義家よしいえとくになつくようになったのですが、元々もともと人をうらこころふかあらえびすのことですから
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
こんな苦をてきたというのも、元々もともと本来の私というものが可愛いいためであった。ところが、よく考えてみると、本来の私というものが、今では殆んど残っていないのである。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「皆さん、これは正覚坊がけたのではありません。元々もともとからの石です」
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「しかし次郎、きのうも其方そちに訳を話したとおり、あの品は元々もともと尾州家秘蔵の拝領仮面、たとい自分の手に返っても、其方や狛家へ戻して遣わす訳にはゆかぬのだぞ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元々もともと、将門をかたづけようという計は、お互いの密契みっけいでしょう。私ひとりに、かくまで、苦心させて、さきに書状もあげてあるのに、一兵も加勢を出し下さらぬとは」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに、深い堅固な信仰ではないにしても、元々もともと、多少仏教に帰依して、この地方に寺の一つも建立こんりゅうしたことのある男だけに、さすが無常を観じて、そう考えずにもいられなかった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それにしても、どうして、なぜ、せがれ達が、将門と、あのように、争わねばならなかったのか。喧嘩は、元々もともと、おことたち叔父甥の事とばかり思うていたによ。……それだけが、わしにはなお、いくら考えても、判じられぬが」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)