優婉ゆうえん)” の例文
嵯峨さが御室おむろ」で馴染なじみの「わたしゃ都の島原できさらぎという傾城けいせいでござんすわいな」の名文句から思い出の優婉ゆうえんな想像が全く破れる。
粗雑なようで優婉ゆうえんであり、ごちごちしているようで精緻を極め一度ページを開いたが最後、文字通り巻を蔽ふあたわざらしめる。
黒岩涙香のこと (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ただ、西のかたはるかに、山城国やましろのくに浄瑠璃寺じょうるりでら吉祥天きっしょうてんのお写真に似させ給う。白理はくり優婉ゆうえん明麗めいれいなる、お十八、九ばかりの、ほぼひとだけの坐像である。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
結跏趺坐した阿弥陀如来の豊かに流麗な像や、脇侍きょうじたる観音勢至せいし両菩薩の、本尊に調和せんとする優婉ゆうえんな腕と胴体の動きなどは、薬師三尊に酷似している。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
自分の才気と力量と美貌びぼうとに充分の自信を持つ葉子であったら、毛の末ほども自分を失う事なく、優婉ゆうえんに円滑に男を自分のかけた陥穽わなの中におとしいれて
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
チャイコフスキーらしい優婉ゆうえんな旋律と、技巧のむずかしいことで有名な曲だ。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
そこにあつた安永五年刊の雨月うげつ物語を取つて鉢のふたにした。この奇怪に優婉ゆうえんな物語は、彼が明和五年三十五歳のときに書いたものである。書いてから本になるまで八年の月日がかかつてゐる。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
優婉ゆうえんで、美しい。「掟きびしき白玉の、露にも濡れしことはなく」——色恋を法度はっととして遮断されていた初心うぶな御殿女中が、はじめて知った男への恋慕のきびしさに、とりのぼせる所作事しょさごとらしい。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ハリイは小さな「燕」との優婉ゆうえんな格闘の新しい方法を案出していた。
ある幸福 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
と、八郎が声を掛けた優婉ゆうえんおんなが居て、菊の奥を台所口から入ったお悦の手から魚籠を受取った。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真中まんなかに例の卓子台ちゃぶだい。で欄間に三枚つづきの錦画にしきえが額にして掛けてある。優婉ゆうえん娜麗だれい白膩はくじ皓体こうたい、乳も胸も、滑かに濡々として、まつわる緋縮緬ひぢりめん、流れる水浅黄、誰も知った——歌麿の蜑女あま一集の姿。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)