併呑へいどん)” の例文
彼の身を、質子ちしとして、今川家に軟擒なんきんしておくことは、政略であって、慈悲ではない。三河併呑へいどんの策謀ではあるが、同情や善意ではない。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信仰のうちに併呑へいどんされた土地、鼓動してる山嶽さんがく、歓喜してる空、人間の獅子しし、それらにたいする賛歌を彼は飲み込んだ。
ここにおいて兵を出して諸国を併呑へいどんせんとし、欧羅巴洲大いに乱る。文化十二年諸国相はかりてポナパルテをとりこにして流竄りゅうざんし、連年の兵乱を治平せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
斯うなるともう一切の感情を好奇心が併呑へいどんしてしまって、しわぶき一つする人も無くなります。
それゆえ、今後ある機会に遇えばおそらくいずれかに併呑へいどんせられるをまぬがれぬであろう。
人類の生存競争 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
日本帝国主義は、国内においては、農村の半封建的搾取、労働者の殖民地的搾取、国外においては、暴力的・軍事的に隣接民族を併呑へいどん、侵略、殖民地化して、成長してきたのである。
逍遙子が沒却理想、若し眞能立ならば、その理想の大なること、豈ハルトマンが比ならむや、ハルトマンが系統の如きものは、所謂衆小理想の一つとして、逍遙子が大理想に併呑へいどんせらるべきのみ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
なんでこんなおおきなしろ寝所ねどこなもんか、これはやがて、四こくしゅうはおろか、東海道とうかいどう浜松はままつ小田原おだわらも、一呑ひとのみに併呑へいどんしようとする支度したくじゃないか
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勝って敵国を併呑へいどんするのも平和のため、他国の勝ちえた物を強いて捨てさせるのも平和のため、捨てさせておいてたちまちこれを拾いとるのも平和のため、なんでもかんでも平和のためと称して
戦争と平和 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
また以て封建社会が富のために併呑へいどんせられつつあるを察するに足らん。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
信長が美濃を望むのは、義元が尾張の攻略を必要としたように、そこが中原ちゅうげんへ進出する段階だからである。単に一美濃の併呑へいどんが、目的ではない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし、将門に、もうすこし、人のわるさがあるならば、この機会に乗じて、武蔵一国を併呑へいどんしてしまうのは何でもない。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えつと、二つの雄藩が、かなたの国では、両々を争ッて、併呑へいどんをうかがい合い、トモニ天ヲイタダカズ、とまで争っていた。呉人越人、同邦ながらたがいに憎しみあっていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「曹操の野望は大きい。彼は近く冀州全土を併呑へいどんせんという大行動を起すにちがいない」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どう致しまして——。とんでもない。呉が荊州けいしゅう併呑へいどんせんと望んでいたことは実に久しいものです。いま、南郡はすでに、呉のたなごころにあるものを、決して、ご心配下さるに及ばん」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なるほど、秀吉とやらは、信長の卒伍そつごから身を起して、いま播磨はりま一円を領し、やがては山陰山陽の二十余ヵ国をも併呑へいどんせんとするかの如き概ある者、おそらく凡人ぼんじんではありますまい。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
織田信秀おだのぶひでや、三河の松平や、駿府の今川家などの、勃興勢力ぼっこうせいりょくのなかに挟まれて、ぽつねんと、島のような存在でありながら、そのどれからも併呑へいどんをまぬがれて、蜂須賀党が蜂須賀党として
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天下併呑へいどんの競望と素地そじとを、秀吉に与えてしまったものだ、と説いている。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを併呑へいどんしてしまおうと侵略の機をうかがっているのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一挙、武力の併呑へいどんがあるばかりである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)