九輪くりん)” の例文
うるがんはこの悪魔が、或は塔の九輪くりんの上に手をつて踊り、或は足門あしもんの屋根の下に日の光を恐れてうづくまる恐しい姿を度々たびたび見た。いやそればかりではない。
悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
塔の九輪くりん頂上にそそり立つ水煙すいえんが、澄みわたった秋空にくっきり浮び上っている。蜻蛉とんぼのとびかう草叢くさむらみちをとおって、荒廃した北大門をくぐり、直ちに金堂へまいる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
清澄の茂太郎は、ハイランドの月見寺の三重の塔の九輪くりんの上で、しきりに大空をながめているのは、この子は、月の出づるに先立って、高いところへのぼりたがる癖がある。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今まで五重塔の九輪くりんに、最後の光を残していた夕陽が、いつの間にやら消え失せてしまうと、あれほど人のにぎわってた浅草も、たちまち下闇したやみの底気味悪いばかりに陰をくして
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
上野の大仏は首が砕け、谷中やなか天王寺てんのうじの塔は九輪くりんが落ち、浅草寺の塔は九輪がかたぶいた。数十カ所から起った火は、三日の朝辰の刻に至って始て消された。おおやけに届けられた変死者が四千三百人であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それが浄瑠璃寺の塔のさびついた九輪くりんだったのである。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いまつひうつしを九輪くりんたふはるけて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
まだうすい朝日に、九輪くりんがまばゆく光っている。禅智内供は、しとみを上げた縁に立って、深く息をすいこんだ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
清澄の茂太郎は、その時分、寺の東南、宮の台なる三重の塔の九輪くりんの上に遊んでおりました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
高塔あららぎや、九輪くりんさび入日いりひかげ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
まだもっと可笑おかしいのはあたしのうちの二階へあがると、最勝寺さいしょうじの塔が見えるんでしょう。そのまた塔の霞の中に九輪くりんだけ光らせているところは与謝野晶子よさのあきこでも歌いそうなのよ。
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)