不知しらず)” の例文
老母、妻にも、こころざしは申し聞けず、様子にて、さとり候も不知しらず、いよいよ相果あいはて候わば、ははつまの儀、御芳志たのみ奉り候。
曰く、御意見無用ごいけんむよう、いのち不知しらず。この命知らずが、知らずのお絃の異名をとったいわれなのだが——それはそれとして。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今は王子権現ごんげんの辺、西新井の大師だいし、川崎大師、雑司ぞうしヶ谷等にもあり、亀戸天満宮かめいどてんまんぐう門前に二軒ほど製作せし家ありしが、震災後これもありやなしや不知しらず
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
またひとつ、家では老婆をして金兵衛に「何も御馳走は有りませんが唐土餅からもちと座頭不知しらずという餅がありますから」
四度目にはじめて答へたが、來しかたを不知しらずとやつたので、狐氏の大女が、不禮者とばかり蛤小女を打つた。
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
脅迫觀念は刻々時々に繼子共の上を襲つた。その襲はれた人の中にすず子があつた。自分自身もをつた。不知しらず不識しらず自分も矯激な言動をするやうになつた。ものは勢である。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
故家うちでは、村で唯一人の大學生なる吾子の夏毎の歸省を、何よりの誇見みえで樂みにもしてゐる、世間不知しらずの母が躍起になつて、自分の病氣や靜子の縁談を理由に、手酷く反對した。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
北の方初めの程は兎角のおんいらへもなく打沈みておはせしが、度々の御尋ねにやうやく面を上げ給而たまいて、さんざふらふわらはが父祖の家は逆臣がために亡ぼされ、唯一人の兄さへ行衛も不知しらずなり侍りしに
不知しらず不識しらずの間に修行が積んで、技が進み術が長けると云ふのみでは無い。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
不知しらず、この恨み、ののしり、呪はるる者は、何処いづくだれならんよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と、お笑いになりながら、康清へ大杯をやれ、とっしゃる。満座も笑った。笑いがやむと康清はいま聞いた読人不知しらずの歌をいい声で朗詠しだした。
なるほど、そういうお絃の右の手の甲には、御意見無用、いのち不知しらずと、二行に割った文身ほりものが読めるのだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この暑中休暇は東京で暮すつもりだと言つて来たのを、故家うちでは、村で唯一人の大学生なる吾子の夏毎の帰省を、何よりの誇見みえにて楽みにもしてゐる、世間不知しらずの母が躍起になつて
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
昔を今に百目蝋燭ろうそく、芯切る高座の春宵風景、足らわぬながら再現したく、時代不知しらずとお叱りを、覚悟の上で催したるに、しゃーいしゃーいの呼び声も、聞こえぬほどの大入りに
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)