万朶ばんだ)” の例文
仏祖釈尊しゃくそんもこの国へ渡ってきて、東なる仏国日本に万朶ばんだ仏華ぶつげを見るうえは、仏祖も天皇のみ心とひとつでなければならないし
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紅葉の『色懺悔』は万朶ばんだの花が一時に咲匂うて馥郁ふくいくたる花の香に息のつまるような感があったが、露伴の『風流仏』は千里漠々ばくばくたる広野に彷徨して黄昏たそがれる時
夫に仕えて貞節専一、しかも紅白粉の身だしなみよろしく、愛嬌こぼるるばかりの世話女房なんてのが、もしあったならば、およそこの人生は万朶ばんだの花咲き匂う。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
上野公園の桜が万朶ばんだの花をひらいて、確かにくれないの軽雲の如く見えたが、しかし花の下には、きまってその選ばれた秀才たちの一団が寝そべって談笑しているので
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大将張飛も最大な敬意と静粛をもって、出迎えの兵をえっし、黄旗青旗金繍旗きんしゅうき日月旗じつげつきなど、万朶ばんだの花の一時にひらくが如く翩翻へんぽんと山風になびかせた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花は、万朶ばんだのさくらの花でも、一輪、一輪、おそろしいくらいの個性を持って居ります。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その時の鉄甲陣にひきかえて、きょうの行列は、万朶ばんだの花を一すじに引いたように、見るからに平和だった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
輪郭りんかくにじんだ満月が中空に浮び、洞庭湖はただ白くぼうとして空と水の境が無く、岸の平沙へいさは昼のように明るく柳の枝は湖水のもやを含んで重く垂れ、遠くに見える桃畑の万朶ばんだの花はあられに似て
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
数百の旗が、矢倉、望楼、石垣、楼門の上などに、万朶ばんだの花が一ぺんに開いたようにひるがえった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万朶ばんだの花のごとく、ひらひら私の眉間みけんのあたりで舞い狂う、あの無量無数の言葉の洪水が、今宵は、また、なんとしたことか、雪のまったく降りやんでしまった空のように、ただ、からっとしていて
めくら草紙 (新字新仮名) / 太宰治(著)
雪のようにこずえに積んだ厚ぼったい花は、黄昏たそがれと共に墨のように黒ずんでいたが、やがて宵月よいづきの影がその花のしんにしのび入るころになって、万朶ばんだの桜が、青銀色な光をもって
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は、これは自分の心がいたらないために仏がいたみを与えるのだと思った。自分の心のもちようでは、恋の冠は、七宝万朶ばんだの花となって誇り楽しめる栄耀えようでなければならないはずだと考えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無敵な彼のすがたは、ちょうど万朶ばんだの雲を蹴ちらす日輪のようだった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文化の万朶ばんだ、華のごとき時代といわれ、上下みなおおらかに、日々、春日しゅんじつの下にいたかと思われている——あの万葉の歌の生れた時代でさえ、後人はその歌のみを見て、天平宝字てんぴょうほうじ絢爛けんらんを慕うが
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花はこの老木からまえにもまして万朶ばんだにたわわな精を咲かせた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)