一角いっかく)” の例文
ふり返って見ると、入院中に、余と運命の一角いっかくを同じくしながら、ついに広い世界を見る機会が来ないでくなった人は少なくない。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一角いっかく入れてスタ/\スタ/\タヽヽヽヽヽとよく云いまするが嘘だそうです、聞きまするに馬は乗りたてからかけうと、馬がれていかんそうで
*3 センナヤ ロシアの大抵の市にある特殊な一角いっかく。本来は乾草市場であるが、多くは場末ばすえの盛り場になっている。
藪入やぶいりなどは勿論ここらの一角いっかくとは没交渉で、新宿行の電車が満員の札をかけて忙がしそうに走るのを見て、太宗寺たいそうじ御閻魔様おえんまさまの御繁昌をひそかに占うに過ぎません。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
流下りゅうかして来た巨材の衝突によって一角いっかくやぶれたため遂に破壊してしまったのです。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
早稲わせから米になって行く。性急せいきゅう百舌鳥もずが鳴く。日が短くなる。赤蜻蛉あかとんぼが夕日の空に数限りもなく乱れる。柿が好い色に照って来る。ある寒い朝、不図ふと見ると富士の北の一角いっかくに白いものが見える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ただ、その間に、博士は天の一角いっかくからふしぎな声を聞いた。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、まるい大空おおぞら一角いっかくを、三角形さんかくけいにくぎっていました。
「風邪をひくぞよ、一角いっかく
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お延の自分に対する信用を、女に大切なその一角いっかくにおいて突きくずすのは、自分で自分に打撲傷だぼくしょうを与えるようなものであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人に同情を寄せたいと思うとき、むこうが泰然の具足で身を固めていては芝居にはならん。器用なものはこの泰然の一角いっかくを針で突きとおしてもおもいげる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
して見ると四角な世界から常識と名のつく、一角いっかく磨滅まめつして、三角のうちに住むのを芸術家と呼んでもよかろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
将軍の去ったあとは群衆もおのずから乱れて今までのように静粛ではない。列を作った同勢の一角いっかくくずれると、堅い黒山が一度に動き出して濃い所がだんだん薄くなる。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
逡巡しゅんじゅんとして曇り勝ちなる春の空を、もどかしとばかりに吹き払う山嵐の、思い切りよく通り抜けた前山ぜんざん一角いっかくは、未練もなく晴れ尽して、老嫗ろううの指さすかた巑岏さんがん
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不平と憎悪ぞうおと、乱倫と悖徳はいとくと、盲断と決行とを想像して、これらの一角いっかくに触れなければならないほどの坂井の弟と、それと利害を共にすべく満洲からいっしょに出て来た安井が
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)