一枝いっし)” の例文
叡山えいざんから降りて来た一人の寺侍がある。一枝いっしの梅に、文書てがみいつけて、五条の西洞院へはどう行きますかと、京の往来の者にたずねていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日にげたる老翁ろうおう鍬を肩にし一枝いっしの桃花を折りて田畝でんぽより帰り、老婆浣衣かんいし終りて柴門さいもんあたりたたずあんにこれを迎ふれば、飢雀きじゃくその間をうかがひ井戸端の乾飯ほしいいついば
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と我と我が心にじて、焚火のほとりにてほッと息をく折しもあれ、怪しや弦音げんおん高く一枝いっしの征矢は羽呻はうなりをなして、文治が顔のあたりをかすめて、向うの立木たちきに刺さりました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
事の第一原因たるが女主人の非行に触れること無く、又此の老主人の威厳を冒すことも無く、巧みに一枝いっしの笛を取返すことの必要を此家の主人に会得させ、其の力をることを乞いて
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一度び笑えば百媚ひゃくび生ずといわれた美貌も、すっかりやつれ果て、長い黒髪をがっくり横たえて、頭を上げるのもやっとというその姿は、まさに、梨花りか一枝いっし春雨はるあめぶ、という風情であった。
よなよなともづなをわが窓の下に繋ぎてししが、あるあした羊小屋の扉のあかぬにこころづきて、人々岸辺にゆきて見しに、波虚しき船を打ちて、残れるはかれ草の上なる一枝いっしの笛のみなりきと聞きつ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
松はういものつらいものというから、松を憎がるのはいいが、その松は世間並みの松と違って、公儀御堀の松だぜ、一枝いっしらば一指いっしを切るというようなことになるぜ、めっそう重い処刑に会うんだぜ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一枝いっしさんかい?」
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よなよなともづなをわが窓のもとにつなぎてししが、ある朝羊小屋の扉のあかぬにこころづきて、人々岸辺にゆきて見しに、波むなしき船を打ちて、残れるはかれ草の上なる一枝いっしの笛のみなりきと聞きつ
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)