一廉いっかど)” の例文
手脚を少し動かすと一廉いっかど勉強した様で、汚ないものでも扱うと一廉謙遜になった様で、無造作に応対をすると一廉人を愛するかの様で
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一廉いっかど社会観のような口ぶり、説くがごとく言いながら、上に上って、片手にそれまで持っていた、紫の風呂敷包、真四角なのを差置いた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おまえは十露盤そろばんを取ったり帳面を扱ったりさせれば一廉いっかどの人間だけれども、人を馬鹿にするも程が有るじゃないか、位牌と婚礼をしろって馬鹿/\しい
「これで一廉いっかどの手柄をした積りでいたところが、ちっと見当けんとうが狂いましたよ」と、半七老人は額をなでながら笑い出した。「まあ、だんだんに話しましょう」
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あのイエスどんが弟子を連れたりして、一廉いっかど先生ラビになって帰ってきた。あの男も偉くなったものだなあ」
胃腸の弱い瀬川はたまに猪口を手にするだけで、盃洗はいせんのなかへこぼし滾しして、んだふりをしていたが、お茶もたて花もけ、庖丁ほうちょうもちょっと腕が利くところから、一廉いっかどの食通であり、(未完)
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
稀に来る都人士には、彼の甲斐々々しい百姓姿を見て、一廉いっかど其道の巧者こうしゃになったと思う者もあろう。村の者は最早もう彼の正体しょうたいを看破して居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ところへ、はるか虚空こくうから大鳶おほとび一羽いちわ、矢のやうにおろいて来て、すかりと大蛇おおへび引抓ひきつかんで飛ばうとすると、這奴しゃつ地所持じしょもち一廉いっかどのぬしと見えて、やゝ、其の手ははぬ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もう一廉いっかどの太夫さん気取りになってしまったのです。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
道理で来てから帰るまで変なことずくめ、しかし幽霊でもおれ一廉いっかどの世話をしてやったから、あだとは思うまい。何のせいだかあの婦人おんなは、心から可愛かわゆうて不便ふびんでならぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は慄然りつぜんとして膚粟はだえあわを生じた。正にそれに相違ないのだから。……流儀は違うが、額も、鼻も、光る先生、一廉いっかどのお役者で、評判の後家——いや、未亡人——いや、後室たらしさ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)