一六いちろく)” の例文
それは堀田原のある御家人ごけにんの家で、主人のほかに四、五人の友達が集まって、一六いちろくの日に栄之丞の出稽古を頼むということになった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一六いちろく三五さんご采粒さいつぶかの、はい、ござります。』とすみかべ押着おつゝけた、薬箪笥くすりだんすふるびたやうな抽斗ひきだしけると、ねづみふんが、ぱら/\こぼれる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まだ自分たちと同じく蠣殻町かきがらちょうの父の家に住居のころ、一六いちろく三八さんぱちか日取りは記憶せぬが月に数回、師をへいして正式に茶の湯の道を学んだのが始めで
茶の本:01 はしがき (新字新仮名) / 岡倉由三郎(著)
一六いちろくの目は明かに出た。ルビコンは渡らねばならぬ。しかし事もなげに河を横切った該撒シーザーは英雄である。通例の人はいざと云う間際まぎわになってからまた思い返す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一六いちろく鳴鶴めいかくはもちろんのこと、三洲さんしゅう梧竹ごちく、いずれも書道の根本を弁えそこなった結果、方向を誤って、書は手先の能くする所と合点し、書道に筆ばかりをり減らしたものだ。
毅堂の赴任を賀した諸家の詩賦について、わたくしは巌谷迂堂いわやうどうの絶句を摘録して置きたい。迂堂は後の一六いちろく先生でわたくしの畏友いゆう小波さざなみ先生の先考である。迂堂が送別の作は下のごとくである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
師匠は日曜日に休まずに一六いちろくに休むので、弟子が集まっていたのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
本来は一六いちろくの稽古日であるが、この十一日は具足開ぐそくびらきのために、三日後の今夜に繰り延べられたのであった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
風流自喜偶歩ふうりうおのづからぐうほをよろこぶ、とふので、一六いちろく釜日かまびでえす、とそゝりる。懷中くわいちうには唐詩選たうしせん持參ぢさん見當けんたう世間せけんでは、あれは次男坊じなんばうと、けいしてとほざかつて、御次男ごじなんとさへふくらゐ。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
四六君は麹町こうじまち平川町ひらかわちょうから永田町ながたちょうの裏通へとのぼる処に以前は実に幽邃ゆうすいな崖があったと話された。小波さざなみ先生も四六君も共々ともどもその頃は永田町なる故一六いちろく先生の邸宅にまだ部屋住へやずみの身であったのだ。
鳴鶴めいかく巌谷いわや一六いちろく)に比べれば書家離れして、こなれているところもあり調子も高いが、しかし、根本的に見ればやはり、鳴鶴、一六などと同じく書家流にとらわれていて、中味が貧弱である。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)