しやく)” の例文
『千兩の褒美はこの清吉がきつと取つて見せる、濟まねえが八兄哥あにい後で文句は言はないでくれ』つて、しやくな言ひ草ぢやありませんか。
中にも苦味走つた顔の男は、巡査の人を見るやうな見方をしたと思つたので、八はしやくさはつたが、おくが出て下を向いてしまつた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「それもまたうそなのだらう。」そして、女の本部屋で、三味太鼓の音や唄の聲が賑やかにしてゐるのが、しやくにさはつて仕やうがない。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
鳩山夫人のこの振舞を見て、ひどしやくにさへたものが一人ある。それは当の相手の添田氏でも無ければ、添田氏の夫人でもない。
悪魔は、手をふりながら、むさうな声で、かう怒鳴つた。寝入りばなの邪魔をされたのが、よくよくしやくにさはつたらしい。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しやくにさわるけれど、だれ仲間なかまさそつてやらう。仲間なかまぶなららくなもんだ、なに饒舌しやべつてるうちにはくだらうし。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
「お袋と喧嘩したんでせう。僕にまで当り散らすもんで、しやくにさはつたから、こら、あいつの草履、穿いて来てやつた」
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
むねつかへのやまひしやくにあらねどそも/\とこつききたるとき田町たまち高利こうりかしより三月みつきしばりとて十ゑんかりし、一ゑん五拾せん天利てんりとてりしは八ゑんはん
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
別に深い意味でツたのでは無かツたが、俊男は何んだか自分に當付あてつけられたやうに思はれて、グツとしやくさわツた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
うすると此方こつち引手茶屋ひきてぢやや女房かみさん先方むかうしやくさはらせたから、「てますか。」とつたんだらう。てますかとつたものを、たれないとはふはない。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さえ、わたしにまで隠そうとなさるなんぞは、水臭いにも程のあったもの、しやくにさわってたまらなかったのさ
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
養母さん、ちツとはしやくも収りまさあネ、あゝ、何卒一日も早く此様娑婆しやば御免蒙ごめんかうむりたいものだと思つてネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
僕はいつも他事よそごとながらしやくにさはるやうに感ずるのだが、そら君、此家ここの夕食の膳立を知つてるだらう。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
その點は、ちつとも心配しなくてもいゝの……あの自轉車屋も、考へるとしやくさ。自分ぢや表できれいな顏をしてゐて、裏へ𢌞つてぼろい儲けをしてゐるんだからね。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
彼奴きやつる、どうして彼奴きやつ自分じぶんさきさきへとはるだらう、ま/\しいやつだとおほいしやくさはつたが、さりとて引返ひきかへすのはいやだし、如何どうしてれやうと
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
(起ちかけて又かんがへる。)だが、これからのそ/\出て行くと、なんだか助の野郎におどかされたやうで、ちつとしやくだな。おれはまあ止さう。おめえも止せよ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
私はAがあゝ云つた言葉の中に、『俺に交際つきあつてゐないと損だぞ。』といふやうな、友情の脅威が自ら含まつてゐるのを、何よりもしやくさはつて聞き取つたのだつた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
江戸えどからあたらしく町奉行まちぶぎやうとして來任らいにんしてから丁度ちやうど五ヶげつるもの、くもの、しやくさはることだらけのなかに、町醫まちい中田玄竹なかだげんちく水道すゐだうみづ産湯うぶゆ使つかはない人間にんげんとして
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
お掃除の手伝ひをしたやうに思はれてしやくだから、二人は、大公孫樹おほいてふの根方に腰をおろして足をふみはだかつたお坊さんの前に、面白くないやうな顔をして突つ立つてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
で、しやくさはつて、故意わざと逆に、「もう死んでゐるのだ。姉さんはもう死んで了つてゐるのだ」
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
父はニコリともしない、こぼしたりすると苛々いらいら怒るだけである。私はたゞしやくにさはつてゐたゞけだ。女中がたくさんゐるのに、なんのために私が墨をすらなければならないのか。
石の思ひ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
と云つて笑顔もせずに二重まはしの儘で山田はすわつた。保雄は山田の態度がしやくさはつたので
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
なまじい、借金の催促にたんぢやない抔と弁明べんめいすると、又平岡が其うらくのがしやくだから、向ふの疳違かんちがひは、疳違かんちがひかまはないとしていて、此方こつち此方こつちを進める態度たいどた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
院長は黙り込んでママ嫌の悪いお嬢さんにシヤツクリ止めの薬をのませたり話をしかけたりしました。が、お嬢さんの鈴虫は、院長の来るのがおそかつたのでしやくにさわつてゐたのです。
こほろぎの死 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
深く感じ再度勸むる言葉もなく其意にまかせて打過けり斯て光陰つきひたつ程に姑女お八重は是まで種々さま/″\辛苦しんくせしつかれにや持病のしやく打臥うちふし漸次しだいに病氣差重りしにぞお菊は大いに心を痛め種々療養れうやうに手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
よせて笑つたわよ。私、しやくだから、さつさと蒲団を敷いて寝ちやつたのよ
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
其滿足そのまんぞくかほひと見下みさげるやうな樣子やうすかれんで同僚どうれうことばふか長靴ながぐつ此等これらみな氣障きざでならなかつたが、ことしやくさはるのは、かれ治療ちれうすること自分じぶんつとめとして、眞面目まじめ治療ちれうをしてゐるつもりなのが。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さてさうなると、私は益々しやくに障つて來ました。
反古 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
猫の糞しやくにぞさわれ。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「たしかに、何處かで見たことのある顏ですよ。この間から考へて居るが、どうしても思ひ出せねえ。しやくにさはるぢやありませんか」
こんな時にかの女のしやくがさし込むのだがと氣が付いたが、ただ瞰みつけながら、「直すなら加集にも頼め——寫眞の先生にも頼め——その學校の生徒にも頼め!」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
いやなら忌で其れもよう御座んすサ、只だ其のいひぷりしやくさはりまさアネ、——ヘン、軍人はわたしいやです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
なかに一人ちよつぴり鼻の尖つた狐のやうな表情をした、商人あきんどらしい男が、口汚くウヰルソンをのゝしるのが、殊更ことさら耳立みゝだつて聞えた。総長某氏はしやくにさへて口を出した。
苦労はかけまじと思へど見す見す大晦日おほみそかに迫りたる家の難義、胸につかへの病はしやくにあらねどそもそも床に就きたる時、田町の高利かしより三月しばりとて十円かりし
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「だからしやくで堪らないのよ。自分で泥棒をしといて、罰は人にせるつてんだからね。」
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
いて周圍しうゐからあきらめさせられたやうがして、縁側えんがはさむいのがなほのことしやくさはつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
狼、のしのしと出でてうかがうに、老いさらぼいたるものなれば、金魚麩きんぎょぶのようにてほしくもあらねど、吠えてもいでみても恐れぬがしやくに障りて、毎夜のごとく小屋をまわりておびやかす。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
度度たびたび傘を紛失ふんじつして買ふのもしやくだと云つて居る内藤は僕の傘の中へはひつて歩いた。自動車にでも乗らうと云つたが、謙遜なヌエは近い所だと云つて聞かなかつた。ラスパイユの通りへ出た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
喧嘩好けんくわずきの少年せうねん、おまけに何時いつくらすの一ばんめてて、試驗しけんときかならず最優等さいゝうとう成績せいせきところから教員けうゐん自分じぶん高慢かうまんしやくさはり、生徒せいと自分じぶん壓制あつせいしやくさはり、自分じぶんにはどうしても人氣にんきうすい。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
博奕ばくちで儲けあげて村内屈指の分限ぶげんであつた初太郎の父は兼ねて自分の父などが、常々「舊家」といふを持出して「なんの博勞風情が!」といふを振𢌞すのがしやくに障つてたまらなかつた所であつたので
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「すると、思つた通り、三度までこのわなに落ちて、すんでの事に御用といふところで——しやくにさはることは三度共輕く逃げられた」
門左はひどくしやくへたらしかつたが、その折は唯笑つて済ました。それから二三日過ぎると、珠数屋あてに手紙を一本持たせてやつた。珠数屋は封を切つてみた。
或醫者がかの女を神經で以つて身づから病氣を惡くしてしまふおかただと云つたことがある。それに違ひはないのである。これまでに、兎角、しやくや精神錯亂を起し易い女だ。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
無骨ぶこつぺん律義りつぎをとこわすれての介抱かいほうひとにあやしく、しのびやかのさゝややが無沙汰ぶさたるぞかし、かくれのかたの六でうをばひと奧樣おくさましやく部屋べや名付なづけて、亂行らんげうあさましきやうにとりなせば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御米およね小六ころく憮然ぶぜんとしてゐる姿すがたて、それを時々とき/″\酒氣しゆきびてかへつてる、何所どこかに殺氣さつきふくんだ、しかもなにしやくさはるんだかわけわからないでゐてはなは不平ふへいらしい小六ころく比較ひかくすると
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
可愛かはいさのあまその不注意ふちういなこのおやが、おそろしくかみさんのしやくにさはつたのだ。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ハヽヽヽ、君の様に悲観ばかりするものぢや無いサ、天下の富を集めて剛造はいの腹をこやすと思へばこそしやくさはるが、之を梅子と云ふ女神めがみ御前おんまへに献げるともや、何も怒るに足らんぢや無いか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
さう言はれると落膽もししやくにもさはつた。
その上、大工の半次は喜三郎がしやくにさはつてたまらないから、いきなり後袈裟うしろげさに斬つたことだらう。側に居たケチ兵衞は、脇腹わきばらを刺した
と、どうかすると、そばにゐる尾崎紅葉に用事を言ひつけたりする。紅葉は気取屋で、加之おまけに子規よりもずつと先輩の積りで居たからそれがしやくで癪で堪らなかつたらしい。